手紙の最後の一行が、頭から離れない。
顔を上げる。
目の前には——
長尾謙杜。
何も言わずに、ただ待っている。
ずっと望んでいた言葉。
ずっと聞きたかった気持ち。
それなのに——
すぐに答えられない自分がいる。
小さく呟く。
声が震える。
手紙を握る手に、力が入る。
言葉が詰まる。
胸の奥にある本音は、もう分かってる。
静かに、でもはっきりと。
一瞬、時間が止まる。
もう隠せない。
もう誤魔化せない。
正直な気持ち。
言い終わる前に——
即答だった。
少し驚いて顔を上げる。
長尾謙杜は、まっすぐこっちを見ている。
一歩、距離が縮まる。
その言葉に、嘘はなかった。
一瞬、息を吸って。
静かな廊下。
でも、心の中はうるさいくらい揺れている。
でも、答えはもう決まっていた。
少しだけ、笑う。
すぐに返ってくる返事。
その言葉を聞いた瞬間——
やっと、力が抜けた。
小さく笑って、涙がこぼれる。
ずっと遠かった距離が、
やっと、ゼロになる。
“ずっとそばに居たい”
あの頃、言えなかった願い。
今は、ちゃんと届いている。
二人の時間は、また動き出す。
今度は——止まらないように。
完














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!