纏わりつく雲を掻き消すように、バスは見慣れない車道を突き進んでいた。
天気はあいにく曇天。今の不安定な心情を空が映し出しているようだ。
バスの人はまばら。早朝に静岡に繰り出す物好きはそういるまい。
ポケットからスマホを取り出し、現在時刻とオーディションの概要を確認する。
わずか二十分ほどの間に、この動作を何度繰り返しただろう。
ため息を吐きながら再びオーディション概要に目をやった。
件名: 【最終審査のご案内】
候補生の皆様へ、
1次予選並びに2次予選通過されましたこと、心よりお祝い申し上げます。
さて、最終審査の詳細が決定いたしましたので以下にご案内いたします。
【最終審査日程】
日付: 2026年XX月XX日 金曜日
時間: 午前10時開始(9時30分までにご集合ください)
場所: ねこの小屋(住所:静岡県○○市1-2-3)
【審査内容】
歌唱・ダンス(指定曲:half of you:the answer)
振り付けの確認をお願いします
自己PR(1分以内で自己紹介をお願いします)
【持ち物】
特に決まったものはございません。
【注意事項】
審査当日は時間厳守でお願いいたします。
体調が優れない場合は、無理をせずご連絡ください。
ご不明点や質問がございましたら、以下の連絡先までお気軽にお問い合わせください。
連絡先: nekoteikoku11@gmail.com
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
日時、場所をおおまかに確認してふと安堵の表情に戻る。
今日、厳密にはこの3日間で己の人生が決まる。
この道で進む上で一度挫折を経験したが、今回再起を決めた。
ただの一般人として人生を終えたくない。その気持ちだけが私を大きく掻き鳴らしていた。
1次審査、2次審査で落ちたならまだ分かる。妥協はできる。
だが、最終審査まで来て落ちる。こんなことが許されるのか。
だから、不退転の決意でここまできた。
今気づいたが、LINEから通知がある。
いよいよ今日だね
行けるから。行ける実力はあるから。
まだ決まってもいないのにこんなこと言うのはアレだけど、たとえ駄目でも次があるから。
頑張ってね。
以前所属していたグループのメンバーで友人である藍井美羽からだ。
文面から見てかなり心配させてしまっていたようだ。
すまないと思いつつも、決意は変わらない。
やはり自分には次はない。これがラストチャンス。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!