慌ただしい国王としての生活の中で、明日は国の各地をまわる
俺のお披露目会一日目。
お披露目会は三日間行われ、国の首都では初日、つまり今日と最終日の
二回行われる。
そして今日も、準備ということでみんな城の中を駆け回っていた。
しゃるろに教えられてホールに行けば、手配した者たちが
中央で恭しくお辞儀をする。
小さく会釈すると、一度だけ見た衣装を差し出された。
見た目は完全に着物。だが着脱方法はワンピース方式で、
どこか中華服のような雰囲気もある。
俺ということで緑を基調とした服は鮮やかに模様付けされており
和服とも洋服とも表せないものだ。
サイズぴったりのそれを着ると、姿見の前に立つ。
明日と同じセットで整えられた髪の毛と合わされば、
自分でも綺麗だと思えた。
これは最終確認ということで、念のための雰囲気を出して
困ることはないか聞いてくる人たちに否定の意を示す。
そこでちょうどしのからのお呼びかけがかかり、俺はまた駆けて行った。
いつもより二時間ほど早い朝。
昨日は動きっぱなしで早く寝てもすぐ寝つけたので、疲れは
ほとんどない。
代わりに若干の緊張だ。
一日目と言えど各地をまわるのだから、きっと今日も慌ただしい
一日になることだろう。
俺同様寝起きのアルケーは、少々ふらつき足取りで準備を始める。
俺もなんとか眠気を追い払いながら用意を進めた。
うるみやたちにも助けてもらいつつ準備を終えたころには、出発に
ちょうどいい時間になっている。
外に出て停められていた車は、数回しか見たことない高い車だった。
値段ではなく、天井が。おそらく値段も高いだろうけど。
乗り込み、お披露目の時間までは上に行かず下で待機する。
時間が来れば、国王で俺とアルケーは上の椅子に。
従者であるしゃるろ、しの、うるみやはその後ろに控える。
だんだん心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、俺はその時を待った。
階段を上り見下ろせば、国民たちの歓声が辺りを包む。
すごい人だ。こんなにお披露目会が賑わうなんて。
今からこの国民の中を抜けていく。椅子に座っているだけでいいとはいえ、
時々は民と視線を合わせて、しかもずっと微笑んでいなければならない。
かなりきついことになりそうだ。
俺とアルケーが座り、三人が後ろに控えると車がゆっくり発進する。
下にいる大勢と視線を合わせれば、それだけで歓声が上がった。
しかし、俺の存在をいいと思ってくれる人ばかりではない。
今までの国王は、アルケー一人。一つの国に二人の国王がいるということは
極めて稀で、よしと思わない人も当然いる。
なので、初めから顔をしかめている人もいるし、新しい国王とは
果たして国を任せられるに値するような人なのだろうかと値踏みてきな
感じで見に来ている人もいるはずだ。
別に責めはしないしそう思ってもおかしくないと理解はするが、
心地が悪くなるのは否めない。
と、初めの地点で一時間が経過しようとした頃。
こそっとすぐ後ろに控えるしゃるろの声が聞こえた。
もちろんこの会話は盛り上がっている国民たちに聞こえることはない。
俺もどこだろうと視線を彷徨わせれば、確かにいた。俺に似た二人の
人物が。
もしかして、と一つの考えが浮かぶ。
夫婦同士は似ていなくとも、二人の顔つきやなんやらを合わせれば俺に
そっくり。
片方は目元や全体的な顔つき、片方は骨格が似ている。
しかし、現在二人の顔はしかめられ、目が合うともっと機嫌が悪そうに
睨まれた。
何かこそこそ話しているようだし、印象はよくない。
きっと、人としてもよくないのだろう。
もし俺がアルケーと義理の兄弟にならなければ…と考えようとして、やめた。
もう俺には関係のない話だ。そんなことを考えても、どうにもならない。
結果的に俺は幸せなのだからそれでいい。
城という場所に来られた点に関してだけは、感謝してもいいかもしれない。
もう関わる機会は一生ないだろうけど。
そうして首都でのお披露目会が無事終わり、滞りなく予定通りに
お披露目会は進んで行った。
そして、本日最後の地。
少し小さな村で開催されているらしいが、まったくそのようには
思わせないほどの人数だ。
首都には劣るが、それでも十分。
中には――どこでもそうだったが――子どもも多く見られて、
ここは特に多い気がする。
子どもは本来苦手だが、無邪気に喜んでいる子たちを見ていると
自然と頬が緩む。
そうして三十分で最後のお披露目会が終わった。
うるみやが俺とアルケーの肩をぽん、と叩く。
主人を雑にあしらったうるみやは、帰りの車まで案内してくれる。
思いっきり伸びをしたしゃるろは、一番に乗り込んだ。
次にしの、俺、アルケー、うるみやと続く。
お披露目会の速度に慣れてしまった後で普通の車のスピードは
とても速く感じられた。
同じことを思っているのが一番分かりやすいのがしゃるろだ。
街の風景を眺めながら帰っていると。
ふと、細道にうずくまっている子どもが目に入った。
迷子だろうか。辺りに人がいる様子はないし、放っておいたら
まずそう。
言えば、運転手はすぐ反応する。
と歩き出すと、大人数で行っても怖がらせてしまうと判断した
四人は待機するらしい。
子どものいたところまで行くと、やはり一人で泣いていた。
泣きはらした顔を上げた少年は、俺を見るなり目を輝かせた。
なんとなく居心地が悪い気がしてスルーする。
なるべく話しやすいように笑ってみせると、見惚れるような
表情になった少年は肯定する。
確か、この近くに迷子センターがあったはず。
どこから来たのかは知らないが、そこに預ければ大丈夫だろう。
と提案すれば。
めちゃ丁寧な敬語を使われてしまった。
すごいなこの子。礼儀正しすぎて俺までかしこまってしまう。
一緒に迷子センターまで行く道中、その子はよくそんな話せるな、と
感心するくらいたくさんの話をしてくれた。
話にいつの間にか引き込まれた俺は、無意識に自分の話もしている。
時間がないと言ってしまったが、あまり遅くなってはいけないだけで
もう後の急ぐ予定は特にないから大丈夫ではある。
他愛もない話を聞いて話しているうちに、施設が見えてきた。
素っ気ない態度になってしまったが、きっとこの子なら許してくれるだろう。
礼儀正しく感謝を伝えられると、何か返さねばと言う気にも
なってきて、頭を撫でた。
踵を返すと。
おっといけない。声小さかったから少年には聞こえていないだろうけど。
急に好きって…よほど俺のファンなんだな。
あまり好意を直接的に伝えられたことがないからどう返せばいいのか
いまいち分からないが、とにかく礼は言わなければならない。
意識して口角を上げて、少し練習した笑みを作る。
変に緊張した気がした。
動揺を悟られないためにすぐ踵を返し、車に向かう。
ふふっ、と笑って車に乗り込む。
俺を良く思わない人もいる。でもあの子のように、肯定してくれる人だって
たくさんいる。
不安が大きかったが、どんな反応をされるか正直怖かったけど、
俺は一人ではない。
大変だけど幸せで、充実した日々を送れそうだ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。