不安でも、怖くても、進むしかないのなら。
怯えていないで、立ち上がるしかないのなら。
運命につき従って、自分たちのものにするのが、俺たちだ。
泣けない自分が情けない。
感情を隠すのに慣れてしまって、表に出すのができなくなっている。
長年生きとったのも多少はあると思うが、それ以上に従者として
感情の制御をしてきたのが大きいやろうと思う。
泣きたい時に泣けないのは、泣かなきゃいけない時に泣けないのは、
こんなに辛かったんか……。
これまでに何人も死ぬ人を見てきた。目の前で目撃したこともあった。
でも不思議と寂しさなんて感じなくて。人間はこういうものだから、仕方ない
としか考えてなくて、この思いを感じたのは…久しぶり。
だから無性に一人になりたくて仕方なく、せめてあるさんたちからは
離れたいと城を出てきた。適当な嘘を吐いて。
城からみた隣町…つまり俺がいるこの町は、歌龍の住んでいた町。
家に行こうか迷ったが、歌龍が営んでいた店の前のベンチに座っていることにした。
……ん?
なんやぼーっとしとったけど、あれってかなめやない?
………え、は、見られた?うるみやのめちゃ抜けた顔見られたん?
え~、誰にも見せてなかったんに…庭でもちょっと見られそうなって
焦ったけど……。
あと後ずさろうとした時に打った頭が少々痛い。腕に比べたら軽いはずなんやけど、
痛みを感じるのはなんでやろ。
かなさんとあいさつを交わし、またいくつか会話をする。
歌龍のことを話せば、かなめは優しく抱いてくれた。
気づかれないように息を吐く。温かい。ずっと感じていたい。
俺は人の温もりが大好きや。この、なんの曇りもなく包んでくれる感覚が、
心地よくてたまらない。
泣きたい、と思った。涙を流せば気持ちがいくらか楽になるだろうと。
でも感情の制御をしすぎたこの心では、到底流せそうにない。ただ苦しいという
思いだけが募っていく。
ああ、でも今だけは。かなめに包まれて、温もりを感じていれば。
少しは、楽になれるかもしれない。
かなめにうるのことは任せたけど、大丈夫だったかな。
帰ってくるの遅い気がするし…何もないといいんだけど。
俺がしのの部屋にいる理由。
玄関の掃除が終わった後すぐ仕事に取り組もうとしたのだが、
うるのことが気になりすぎて碌に集中できず。
仕方がないのでしのを休憩に誘った、というわけだ。
しのに来た理由は言っていないが相談はしたので、きっと
勘付いていることだろう。
といってみたけれど、自分でも自覚はしている。
だって周りから何回も言われるんだもん。
これには意外だった。そうかな。
でも、そうなる理由が思いつかないわけではない。
俺は、役に立ちたかった。
でも戦闘ではうるや、もしかしたらアルケーにも劣ってるし、
アルケーに勝てないんならかなめにも負ける。
だから力のことでは役に立てない。
なら俺に何ができるだろうと考えた時に、みんなの相談にのるしかなかったのだ。
それからは顔色の変化やテンションの違いをよく見るようにして、
いつの間にか顔色を窺うのが常となっていた。
だから他よりも不調に気づくし、悩みを引き出せる。
特にうるなんかは悩みを抱えることが多くて、表にはなかなか出さないけど
ふとした拍子に顔を曇らせるから、声をかけることも多かった。
もちろん相談内容とかは誰にも話さないけど、その前の段階のことは
話してたからしのも俺がよくうるを心配すると言ったのだろう。
それは、俺が役に立てているということも証拠でもあると思う。
言葉を濁すしかない。
俺の本当のことを言ったらどんな反応をされるか分からないから、怖い。
正直に俺はこうしてるから、そう感じるんじゃない?とは言えない。
言いにくそうに視線を逸らすしの。
これは素直な気持ちを言いたいときのしのだな。
そんなこと思われてたの?
ショックを受けた顔をしていたのだろうか…いや、実際ショックではあるけど。
自分で思っていたよりも俺は衝撃だったらしく、
声がどんどんしぼんでいった。
抵抗する術なく俯いてしまう体をなんとか抑えたいけれど
無理だ。
きっと「ごめん」は言いたくないんだろう。慰めになって
余計に俺が悲しむと思うだろうから。しのはそういう人だ。
だけど、なんだか目が覚めた気がした。
しのが視界の端で慌てているけれど、今はいったんおいといて。
俺が他のことで役に立てる自信はない。でも、あんまり相談を
してほしいって思ってばかりじゃだめなのかもしれない。
俺が相談できるようにってしようとしたのは、認めてほしかったから。
みんなを支えて、城の一員に入れてほしかったから。
でも、もういいのかもしれない。無理にそんなことせずともここに。
俺の居場所はあるから。
めちゃくちゃやばいと思ってたんだろうなー。
すごいほっとしたような、でもびっくりした顔をしてる。
感謝したのは嘘じゃない。驚くのも当たり前だと思うけど、
目を覚まさせてくれた、って言えばいいのかな?のはしのだから。
きょどってるしのがかわいらしくて、思わず笑ってしまう。
にこっと笑うと、しのも微笑み返してくれる。
無意識に浮かんだ笑顔のまま立ち上がって戸に寄って行く。
開ける直前。
コンコン。
勢いよく戸を開いたアルケーは、俺を横目に見ながら続けた。
しのと顔を見合わせて。
戸惑っているアルケーが面白くて、長いこと笑っていた。
心臓が早鐘を打っているのが伝わる。
こんなに緊張したのはいつぶりだろう。
ただ人一人を前にしているだけなのに。
隣にいるアルケーがこそっと耳打ちしてくる。
そんなんで安心できたら、深呼吸で収めてるよ。
しかし文句を言ってもどうにもならないので余計なことは言わず。
目の前の人物…俺が、国王の試験を通過できたか否かを伝える役目の
男性に、目線を合わせた。
周りの音が聞こえなくなるくらい心臓がうるさい。
でも今から言う一文だけは聞き逃しちゃいけない。
取り乱してはいけない場所。それは分かっている。
けれど顔が綻ぶくらいは許してほしい。
面々に問われる中、俺は息を吸って。
思っていたよりも弾んだ声が出て、自分で感じている以上に喜んで
いるのだなと他人事のように思ってしまう。
正直、嬉しいけれど実感はない。
これから俺がこの国の国王として生きていくこと。それは
どれほど大変だろうか。果たして、責任はどのくらいだろうか。
国の命運を背負っているということは、重大だ。
俺は、それを背負っていいと認められた。
誰からしても喜ばしいこと。
実際、アルケーも、目の前の三人もすごく喜んでくれている。
うきうき満面の笑みで俺に反応したしのを見ると言いにくいのだが…。
情けない声が出た。
周りの喧騒が静まり返る。
気まずいなあ。
さすがうるみや。年長者。
よく人のことを分かっていらっしゃる。
こんなんじゃ到底国王は務まらないと思っている。
責任を感じていないと、責務だって果たしきれない。
みな同じことを考えているらしく、視線が俺に集まる。
珍しく本心からの微笑みを浮かべ差し伸べられたその手を、
俺は何の迷いもなく、掴んでいた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。