話長くなっちゃった
すみませんね!
全て、真実の言葉。
これからも。
輝く未来へ。
国王になった翌日の朝。
いつもより一時間早起きした俺は、すでに起きているアルケーの
部屋へと向かった。
コンコン。
今までアルケーに敬語など使わなかったが、権力者…つまり
他の国の国王などと交流する際の練習ということで、
一か月間敬語を使わねばいけなくなった。
それはアルケーも同じで、一週間もすれば慣れるのかな、という
感じである。
ぎこちない話し方は、果たして俺だからか慣れていないからか。
後者だとけっこうまずくないか。五年も国王をしているんだし、
後者な可能性は少ないが。
傍で笑っているうるみやは無視して。
何を始めるのかといえば、もちろん国王としての勉強だ。
俺は国王として未熟な点がいくつもある。その一つに礼儀も入って
いるのだが、今日重点的にするのは国民の前での振る舞い方。
国民は俺たちを絶対的な頂点としていて、そんな大勢の前で失態を
さらせば、一度だけでも信用はがたおち。
情報が回りやすいご時世では、簡単に根も葉もない噂が広まる。
広まりすぎたものは本人が否定しても、世間は納得しない。
だから国民の前では正しく美しく振舞わねばならない。
どうにも長期戦になりそうだった。
二人の微笑ましいとしか言いようのないやりとりを、自然に浮かぶ笑みで見つめる。
慣れない敬語だろうが、この二人は身に着くのが早い。おそらくすぐ慣れるやろう。
それにしても、間違えた時の言い直しがおもろい。それで何度笑わかされたことか。
時々呆れた視線を送られたが、もう慣れっ子である。ゲラなのだから仕方ない。
彼が小休憩で部屋を出て行った時に言う。
本人の前で言わないのは恥ずかしいからですけども。
茶化してやろうかと思ったが、なんだかんだアルケーはよくかなめを褒める。
慕っているし家族として大好きな証拠だ。
いつもからかってるで、そんな何回も同じことされたら嫌んなるよな。
ということで何も言わないでおいた。
遠くを見るような目で呟いたアルケーは、疲れたように息を吐く。
直に褒めると、意外そうに目を見開かれる。
とツッコみながらも嫌ではないのだが。
頬を薄紅に染めながら言う主人は実に可愛らしい。
ここで視線を合わせられないのが我が主。
まったく、照れ屋なのだから。
俺は先もずっと、主が生を全うするまで仕えているだろう。
何年も生きた俺が彼らのように成長していけるかは分からないが、
せめて邪魔をしないように、傍で支えていけたらと切実に思う。
王室に行く途中、伸びをしながら歩くかなめを見つめて手を振る。
危ない危ない。引き返す手間がかかるところだった。
熱心だなあ。
なんだか最近の,というか…“やつら”を滅してからのかなめはすっきりした顔をしている。
過去のしがらみがようやく晴れたからだろうか。
れむの髪飾りをしているから、彼を忘れようとしている感じじゃなさそう。
れむは一人っ子の俺にとってお兄ちゃんみたいな人だった。
うざがりながらも俺の世話をしてくれて、親は俺たちが関わってることを
あんまりよく思ってなかったらしいけど、二人の時間は幸せだった。
だかられむの葬式の後大号泣したのを覚えている。
葬式の最中は信じられなくてほぼ放心状態だったけど、家に帰ったら
糸が切れたみたいに泣いた。
その時くらいは関わるのに反対していた親も傍で慰めてくれた。
俺だって一生れむを忘れる気はない。ずっと覚えてる。
でもれむのことで私生活や仕事に影響を及ぼす気もさらさらない。
そんなことしたら従者失格だし。
過去は過去。死んでしまった人は戻らない。
直後こそれむを求めていたけど、今は楽しかった日々を思い出して
寂しくなることはない。
その理由の一つはもしかしたらみんなが、かなめが、アルケーが、
しゃるが、うるが、居てくれるからかもしれない。
城の仕事は大変だし、厄介なことに巻き込まれることもある。
その度に疲れるけど、辞めたいと思ったことは一度もない。
これからだってきっと思わない。
だって俺は、ここにいる家族が大好きだから。
俺、しゃるろは今ピンチに陥っている。
原因は一通の手紙。
差出人は実家からで、内容は「父が会社のお偉いさんになったから
祝うためのパーティーを開くのだが、参加しないか」というものだった。
しかし。城は一日空ければ次の日、冗談抜きで一睡もできないほど
シビアな現場である。
故に、父のことはめでたいし祝いたい気持ちでいっぱいなのだが、
休めないのが現状。
ならば断わればいいのだが、なんでもこの会には親族ほぼ全員が集まるらしい。
最近実家の家族や親族と会った記憶はないし、連絡をとった覚えもない。
行けるものなら行きたいし、親族も集まる場に主役の息子が居なかったら
印象が悪くなるので欠席したくないが。
パーティーの日付を変えても結局同じことで悩む。
なんせ城の仕事に休みはないのだから。
国王の補佐役とはそういうことだ。
頭を抱えていれば。
頭上から声が降ってきた。
驚いて振り仰げば、すぐ近くにかなめの顔がある。
びっくりしすぎて硬直していると、かなめはくすっと笑いをもらす。
ようやく息を吐くと、かなめに近くの椅子を差し出した。
これは言ってもいいのだろうかと一瞬考える。
が、人様に言って悪いことではない。
手紙の内容だけすれば喜ばしいことなのだから問題はないだろう。
事情を聴いて真剣に考えてくれるかなめは優しい。
そして、提案までしてくれた。
予想外の発言に目を丸くする。
そう、彼は国王になったばかりで課題が山積みな上、通常の仕事だってあるのだ。
そんな人に頼めない。負担が大きすぎる。
しかし、案外あっさりと否定された。
にこりと微笑むかなめは頼れる兄のような存在感を放っている。
俺の方が年上のはずなんだけどな。
ぽん、と肩を叩かれると、とてつもない安心感でほんとに
大丈夫だと思えてくる。
こんなに心強い家族がいるなんて、俺は恵まれてるな~。
ちょっとだけ悩んだ後頷くと、かなめはまた微笑んで部屋から出ていった。
俺も恩返しはできているだろうか。
城に来たきっかけはアルケーに命を助けられたこと。
憧れて、恩返しがしたくて、城に来ることを目指した。
城はかなり儲けられたから実家は安定してるらしい。
実家への恩返しは、現在進行形でできているはず。
でも城では。
俺より強い人がいて、力不足な点が多くて、仕事も忙しい。
なんとかこなせているけどそれはあくまでノルマだから、
必要最低限しかできていない。
ちゃんとできてるかな。俺は城でういてないかな。
その疑問はいつものみんなを見ていれば、答えは自然と出てくるもの。
大丈夫、俺は城の一員としてずっと前から認められていて、力になれてる。
アルケーのように国を動かす程の権力はない。かなめのように自ら前へ
進んで行く勇気も足りない。うるのように圧倒的な力はない。
しののように幼いながらも仕事を頑張る根気強さはない。
他にも足りないものなんていくらでも出てくる。
それでも、俺はちゃんとできてる。支え合いながら互いに尽くせてる。
俺はそれで十分で、なにより、それが一番の幸せだ。
かなめは優秀すぎるとつくづく思う。
それに加えて、俺が教えればすぐに吸収する要領の良さ。
まさに国王の器にぴったりだ。
かなめがれむの復讐を必ず果たすと燃えていた時、俺は何もできなかった。
かなめを支えてることも、守ることも、何も。
できることはあったはずなのにあいつは大丈夫だと、いつか目を覚まして
くれるとどこかで信じて疑わなかった。
それで記憶を失ったのに、挙げ句悲劇を利用しようなど、国王のしていいことではない。
記憶が戻るのを恐れていたのは、またかなめに一人で行ってほしくなかったから。
しかし嘘をついていい理由にはなっていなかった。
記憶が戻ってから、かなめを止めたのはうるみやと生前のれむで。
”やつら”のところに行っても俺は微力を尽くすだけで役に立っていない。
暴走しそうになっていたかなめを止めたのもまたうるみやで、俺は気づくことすら
できなかった。
ぽつりとこぼれた呟きにはっとする。
近くにはうるみやがいるから、絶対聞かれてた。やってしまった。
恐る恐るうるみやを見ると、心配そうに眉尻を下げている。
謝ってもそれでどうにかなるものでもなく、忘れてくれと言っても無駄だろう。
うるみやは俺の声音だけで本心か否か分かるから、今の呟きが本心なのは
分かってしまったはずだ。
真面目に言ってくる従者は、揺らがぬ瞳で見つめてきた。
乱暴な物言いになるのを意識してまた自分に呆れる。
少しくらい、優しく出来ただろうに。
きっとこいつに隠し事はできない。
しかし今話せば、途中でかなめがも戻ってきて聴かれるかもしれない。
それは嫌だ。
それだけで意図を察したのか、うるみやは諦めたように息を吐く。
少しするとかなめが戻って来て、勉強が再開した。
教えている間、ちゃんと重要な部分は抜けていないか、
教え方は上手いかというのがぐるぐる頭を支配する。
こんなに弱気になったのはいつぶりだろうな。
考え出すと止まらないのも俺の良くない点だ。
無事かなめに異変を悟られず今日の勉強が終わる。
かなめは街の地理を知るのと外の空気を吸いたいからという理由で散歩に出かけた。
二人きりになった部屋で、うるみやは俺が話し出すのを待っているようだ。
ほんと、らしくないことを言うと思う。
しかしうるみやは驚かない。
雰囲気からテンションを読み取ったのだろう。伊達に二十年も一緒に
いるわけではないな。
たしかに国王は俺だ。
しかし俺がいなくてもきっとかなめがこなしていた。
父様が引退してからは、かなめがその荷を負っていたはずだ。
読んだのか、顔で分かったのか。どちらでもいいが。
考えてみればそうだ。かなめはれむが一番だったから、国が
大変なことになっていたかもしれない。
でも、さっきまで俺が考えていたのはそうじゃなく。
同じ質問のように聞こえるかもしれない。
でもうるみやなら分かってくれるはずだ。
まっすぐな瞳に貫かれ、それが本当だと分かる。
やっぱうるみやには敵わねえ。こいつが居ないと、俺はだめだ。
こいつが居るから俺は居られる。
立ち上がって、うるみやに寄る。
不思議そうな顔をしていたうるみやだが、何をしても許してくれそうだった。
もう自信はついた。あとは、感謝を伝えるだけ。
でも俺は直接感謝を伝えようとすると目を逸らしてしまうから、その
心配がないように。
うるみやの背に、腕を回して引き寄せた。
胸に顔を埋めるとひどく心地よくて、我慢していたものが目から
次々溢れる。
うるみやは、頭を撫でてくれた。
俺は城のやつら全員、大好きだ。
部屋の中に突っ立って考える。
俺はようやく、国王となったのだ。
一度は手放したものになれた。なんて幸福なことだろう。
絶対に国王は大変だ。アルケーを見ていれば分かる。
挫けそうになったり、辞めたくなる時もあるかもしれない。
でもそんな時には、家族がいる。
アルケーが、うるみやが、しゃるろが、しのが居てくれるから。
俺は大丈夫。どんな困難でも立ち向かって乗り越えていける。
そう、今までのように。
これからも。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。