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第1話

1、始まり
59
2023/11/23 01:27 更新
天野先生
では、田々さん。お元気で

20××年
東京区内の病院……
伊ノ里病院に、俺は勤務している。
田々婆ちゃん
はい。有難う御座いました

嗄れた声で御礼を言う目の前の婆ちゃんは、俺の患者。
つい最近まで入院していたが、手術の甲斐あって今日、退院することになったのだ。
婆ちゃんの名前は田々晶子。愛称は田々婆ちゃん。
当の本人は、曲がった腰をさらに曲げ、深々とお辞儀ををしている。
田々婆ちゃんは、最後に「本当に、本当に有難う御座いました」と、涙目で訴え、フラつく足取りで自動ドアを抜ける。
天野先生
はぁ………あのババァ マジでキツイ

思わず悪態を吐く。
あのババァ、顔がキモいんだよ。
皺くちゃで、歯も黄いれぇし。
春木先生
天野せんせぇーい‼︎

向こうから、甲高い声が聞こえる。
耳にキーンとその声にエコーがかかり響く。
春木先生
また患者さんへの悪口ですか〜?小学生でもあるまいのに
天野先生
春木先生、ぶっ殺しますよ?
春木先生
酷いですね〜。ここ病院ですよ

これが、同期の春木とのいつものやり取り。
春木は俺の性格が捻じ曲がっているのを知ったせいか、俺の姿を見つけるとからかうようになってしまった。
春木先生
ほら、患者さん来ちゃいますよ?またあの気色悪い演技声で頑張ってくださいね〜w
天野先生
………アイツいつ殺そっかな

陽気な春木のちっさい背中を睨む。
けど、本当に患者が来ると連絡が入ったから、俺は自動ドアへと足を運ぶ。
今回の患者は、結構厄介らしい。
もも
ねね、なんかおもしろいはなししして〜
看護師
お、面白い話?うーん………

横を見ると、若い看護師と小さい女の子…患者だな。
が、何やら無駄話をしている。
看護師
あ、そうだ!ももちゃん、噂の病棟って知ってる?
もも
びょーとー?なにそれ?
看護師
いろんな診断とか、入院する病室があるのを病棟って言うんだよ
もも
あ、ままがみてたどらまのなかにでてきた!ひとがしんでた!
看護師
え、えぇ………お母さんとんでもないの見てるね
もも
えへへっ

患者は褒められてるかと勘違いしてのか、身をもじもじと動かし、頬を少し赤く染めている。
こんなくだらない雑談、いつもなら素通りしてしまう筈が、何故か聞き耳を立ててしまう。
看護師
それでね、その噂の病棟は この病院の横にある、廃棟のこと。あ、もう使われなくなった病棟のことね
もも
で?つづきは?
看護師
その噂の病棟は、昔 沢山の人が亡くなっちゃって医療ミスとかね。その病棟に行くと、そこで死んじゃった人の幽霊が………
もも
やっ‼︎もも、こわいはなししてっていってない‼︎‼︎
看護師
あぁ、御免ね〜

『噂の病棟』
俺でも知ってる。
余りにもシンプルな都市伝説だが………
看護師
あ、天野先生!患者さんあと5分後につくそうですよ‼︎緊急らしいので、万全の状態で、と救急団員の方が

俺の存在に気づいたらしい看護師が、俺に話しかけてきた。
天野先生
あ、分かりました。有難う御座います

春木の言った通りの演技声で、返答を返す。
周りからは、「優しい頼りになる先生」っていうイメージで。
息はしづらいけど、こんな高収入の病院は無いから。

もも
あまちゃん!
天野先生
は?

思わず変な声を出してしまう。
いや、 今「あまちゃん」って………

は?
もも
ももはね、ももっていうの!
天野先生
あ、ももちゃん。よろしくね
もも
うん!あまちゃんとはおともだちだよ!

いや、あまちゃんってキモいからマジやめて欲しいんだけど………
看護師
天野先生→あまちゃん……可愛くていいじゃ無いですか!
天野先生
……あ、あはは〜。そうですね

こんのクソガキ。
変なイメージ定着させやがって。
今度蒸し焼きにして食ってやる。
看護師
あ、あまちゃん…じゃなくて、天野先生!そろそろ時間ですよ
天野先生
あ、はい………

俺は自動ドアを抜ける。
其処には、救急車と、ストレッチャーに乗せられた、血塗れの青年がいた。

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