そう、私は今全力で寝たふりをしている。
しばらくして、小さく布擦れの音がする。
やがて、すー、すーと静かな寝息に変わった。
そっと目を開けて、ベットからゆっくり出る。
カーテンの隙間から覗いた月明かりが、
乃依さんの寝顔を照らす。
その寝顔は、昼間の冷たさがすっかり消え、
すごく綺麗だった。
そんな乃依さんに、不覚にも少しドキッとして、
慌てて首を振る。
私は足音を立てないように、静かに窓を開けて
ベランダへ出た。
夜風が頬を撫でる。
空を見上げると、そこには恨めしいほど綺麗な
白く、丸く、輝く月が浮かんでいた。
ツクヨミでは、かぐやと久しぶりに騒げて楽しかった。
彩葉さんも、黒鬼の皆さんもとても温かかった。
でも__
夜の静けさに包まれると、
どうしても思い出してしまう。
自分が、月の全てを背負う__
__『最高管理者』だということを。
あの退屈で、孤独で、冷たい宮殿の記憶。
気づけば、唇からメロディーが溢れていた。
それは、私が大好きな、私と_____しか歌えない、
神聖な月の旋律。
ツクヨミでの私からは想像もつかないような、
消え入りそうで、透き通った歌声が
夜の闇に溶けていく。
月の光を浴びながら歌う私の姿は、
そのまま光になって消えてしまいそうなほど、
儚く揺れていた。
最後の音が夜風に消え、小さくため息をついた。
__そのとき
パチ、パチ、パチ
暗闇から、静かで、ゆっくりとした拍手が聞こえてきた。
その音に驚いて振り返る。
ベランダの仕切りの向こう、隣の窓辺に、
スマホを片手に持った人が立っていた。
そこには、ツクヨミで私に意地悪な質問をしてきた、
黒鬼のリーダー、帝アキラさんが居た。
あの後、ちゃっかり乃依さんの家に泊まっていたらしい。
帝さんは、月の光を浴びながら、
フッと口元を緩めてニヤリと笑う。
慌てていつものトーンを作ろうとしたけれど、
帝さんの瞳は、私の嘘を完全に見抜いていた。
帝さんは、ゆっくりと歩み寄り、低い声で囁く。
全てを見透かしたような帝さんの言葉に、
私は息を呑むことしかできなかった。






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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!