前の話
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焼肉の王子様だけ書きたかった。
みんな肉ばかすか食ってるとこみたい。
そんな思いで書きました。
好き放題書いてるし長い。
主くんの設定
別に読まなくてもいい気はする。読んだ方が頭入りやすいかもしらん。
主は青学男テニマネくん
3年生
主は言葉で人の心動かしちゃう。そりゃもうブンブン動かす。試合時に選手はへばっててもひよってても主くんの言葉で士気が昂まって前向き全力で挑んじゃう。優しい語気と口調と言葉選びが卓越してるある意味合法ドーピング男。他校は「あのマネ厄介」と思ってるよ。根はいい子なんです。
++++
国光くんの言葉を遮る乾杯の温度。その眉間にやや皺が深く刻まれているが、肉を前にして長々と挨拶する方が間違っている。武くんなんて、部長の口上の間ずっと肉を見つめていたよ。その姿はもう特別なおやつを前にして待ての指示をされ、そのまま主人が長電話を始めてしまった犬のような。ヨダレすごかったな。
「リョーマ、ふーふーしてやろうか?」
「またガキ扱いして。」
「これ焼けてるから取ってあげようなぁ?タレは甘口がいい?」
「いい加減にしてくんない?俺塩派だし」
へぇ、塩派か。案外渋い。リョーマは和食派だしあっさり食べれる方が好きなのかも?さりげに頼んだキムチをつまみながら自分の牧場(という名の網の一角で育てている俺の肉)が焼き上がるのを待つ。このキムチうま、早く肉焼けないかなぁ、サンチュと巻いて食いたいなぁ、なんて考えていればいつの間にか薫くんと武くんが塩タレ戦争をおっ始めている。そこから広がる戦争の輪、なるほどこれが世界大戦の縮図。塩タレリバーシブルな貞治くんは我関せずといった様子。口に出したら火の粉は降ってくるものでは?その論争も御奉行様という核投下で丸く(?)収まった。ちなみに俺は、好きに焼いて好きに食べたい。脂の乗ったカルビは塩、赤みが多いロースはタレ、ネギタン塩はレモン。あと米ないと何も始まらない。焼肉と言ったら米、それはショートケーキのいちご、ラケットとボール、切り離しては成立しない存在。美味しく育った牧場からロースを掬い上げ、タレにくぐしてご飯にバウンドさせてから口に運ぶ。この熱と塩加減が口の中で消え入る前に大きく米を一口。
……、あーしあわせーー…♡
「ほんと美味しそうに食べるね。余計にお腹空いてきちゃった。」
「CM見てるみたいだにゃ〜」
美味しいと美味しい顔になるからなぁ。噛むたびにコメの粒が解け、砕けた肉と絡み合う。舌の上に広がる肉汁、タレの絶妙な塩加減、口の中に桃源郷ができちゃったなぁ。ぱんぱんに詰め込まれた米と肉を一気に嚥下し烏龍茶で流す。その一連の流れで一つも悲しいことなんてない。幸せしかない。肉を焼いてタレにつけて食べるという至ってシンプルなこの過程だからこそ、余計な感情なんて生まれないんだよ。
「なぁ樺地ぃ」
「俺桃城なんスけどぉ…?」
「あは。」
堪能する間にスカートのようにひらひらと縮んだネギタン塩。焦げてしまうと若干慌ててひっくり返す。瞬間劈く声。いつの間にこちらのテーブルに来たのか、横を向けばドアップの秀一郎くん、いや御奉行様の顔。顔に影が降りて目も血走っていてど迫力だ。般若と能面の隣に君の顔のお面があっても誰も気づかないよ、そういう伝統芸能だって思うよ。
「ネギタン塩をひっくり返すやつがあるか!!なんのために薄く切られていると思っている!片面を網の端でじっくり焼けば自然と火が通るんだ!それをお前は…!!ネギに謝れ!土下座で謝罪しろ!!!」
「あ、あー…確かにぃ…?あは、怒られたぁ〜。あ、お肉焦げちゃう大変だァ〜。なっ?肉汁命肉汁命」
怒らないで食おうぜ、お肉もったいないから、と宥めれば気を高ぶらせながらも納得はしたようで、肉汁命…肉汁命…と呟きながら御奉行は自分の席へ戻って行った。なんだあの人。すっかりネギのいなくなったタンを摘みレモンにつけて口に運ぶ。あ、四天宝寺だ。四天宝寺のユニフォーム、ネギとレモンみたいな色だったなぁ。千里くんが着るとほんとネギタン塩みたいだった、六角はキムチかなぁ、…ン?
「なんで他校こんなにいるわけ」
「今頃気づいたんスか…。」
「あは、肉のことで頭いっぱいだった」
いつのまにか店内にひしめく他校男子テニス部レギュラー。賑やかだな、とは思ったけどまさか全部テニス部とは。比嘉までいるし。その間も牧場から肉をキャトり米とかき込むのは止めない。米がなくなりかけ、おかわりを店主のおじさんにお願いしようとしたタイミングに重なり、奥の襖が開き始める。その奥の襖、その奥、奥、奥、最奥の間で慎ましく食事を嗜む氷帝。この店こんなに広かったっけ。うっかり鳴⚪︎にやられて無⚪︎城に来たのかと思った。景吾くん急に髪伸びたな。これも⚪︎鬼術か…たまげたな…。
「…まぁ、焼肉は美味しいからなぁ。みんな食べたいか。」
誰が言い出したか始まる学校対抗焼肉大食い対決。意気揚々と勝手に司会進行決めて勝手に紹介してくれてるけど英二くんちゃっかり逃げたなぁ。なんだかんだ彼は世渡りが上手い。自由で大して怒られもしない、まさに猫っぽい。英二くんと目が合う。ほらぁ!一言一言ぉ、と促された。ああ、俺もこれ大食い自慢に入れられてるんだ。
「…美味しいお肉楽しみまぁす…?」
第一のノルマ、乾汁が禍々しくグラスの中で揺らめいている。あんな色アニメの心情描写でしか見たことない。一口口に含んだ剣太郎が座敷席から転げ落ちその勢いで店の外まで転がり失神。新作が出るたびにそのグレードがどんどん上がり研鑽されていく毒汁。これもう兵器だから法で取り締まった方がいいと思う。悪い組織に目をつけられたら世界が危ない。氷帝の岳人くん、四天宝寺の千里くんもつづいて脱落。2つしか変わらないとはいえ、金太郎くんの無邪気さは本当に残酷だと思う。リョーマが大人びていてよかった。金太郎くんみたいに無垢だったら今頃俺の口の中に流し込まれてた。
「…周助くーん。」
「いいの?もらって。新作だよ?」
「だからこそかなぁ〜。」
工業廃水みたいな色のドリンクを一気に煽りおすすめと言ってのける味覚。舌が変なのか、それを知覚する頭が変なのか。ともあれ第一関門は突破できた。あとはまず10皿分肉を平らげること。一枚一枚地道にトングで肉を並べていく。手間。非常に手間。生肉の乗った皿を網の上で傾け、肉を全部網の上に落とす。炒め物さながらに肉をほぐす。火が通ればいいんだ、火が通れば。
「お前はさっきから焼肉を侮辱する行為ばかり!!!主婦の適当なおかずじゃないんだぞ!!焼きムラができてはせっかくの肉汁が…!!」
「幸村?(すっとぼけ)立海戦楽しみだな。」
「食べ進めて構わんか?」
「いいよー、説教は聞いとく。めんどくさい人は任せなさい。」
「あざす!!」
秀一郎くんの説教が右からきてるのを左へ受け流す。比嘉すごいなぁ、トングで肉がっついてる。六角と四天宝寺も地道ながらに着実に皿を空けていく。ああやって愚直に食い進める方が腹に入るんだろうな。アメリカの大食いコンテストと日本の大食いコンテスト見てるみたいだ。体格のいい奴ほど大して食えないみたいな話はよく聞くけど、比嘉はよく食いそうだな。じ、と見ていたら迫力に圧倒されて胃もたれしてきた。氷帝は崇弘くんがコピーして…ああいうのもコピーできるんだ。崇弘くんも体大きいからたくさん食べそうだ。すごいなぁ、完璧に落とし込めるほどよく見てるんだろうなぁ、才能だなぁ。多分人のとったノート見るだけでどこに何書いてあるかとか理解できるんだろうなぁ、羨まし。
説教の最中に薫くんが俺の口に肉を運ぶ。うま、ロースに塩も悪くないかも。説教を聞き流す間に2杯目の乾汁。いつもの苦味とえぐみに加えて辛味が相当強いらしい。
「周助くーん。」
「これも飲んでいいの?僕ばっかり悪いなぁ。」
「周助くんだから頼めるんだよ。」
これもこちらは難なくクリア。他校は比嘉以外は一人ずつ脱落。こちらには心強い不二周助がいるからな。たとえ比嘉がゴーヤの苦さやこぉれぇぐぅすぅ?とかいうものの辛さに劣る故に飲めてもこの先彼らが飲めるものが出るとは限らない。ひとしきり焼肉を語り尽くして満足した奉行が肉に喰らいつく。拷問にかけられたような叫び声。店の外に向かって走り出したと思えば、もう2度と席に戻ってくることはなかった。なんだろう、乾汁が跳ね飛んで彼のタレ皿に入ってしまったかな。武くんの邪魔者は消えた発言は申し訳ないとは思いつつも、ここにいるレギュラー全員が思っている事だった。それぞれ拘りやら譲れないものはあっても、それを目の前で指摘し否定することは無粋、マナー違反だと岸辺⚪︎伴も言っていたよ。岸⚪︎が言うなら間違いない。美味しいものは楽しく食べないと。しかし続く謎の脱落。あのプライドの高い氷帝メンバーもけたたましい断末魔をあげて店外へ飛び出し屍の山の肥やしになっていく。武くんもこの謎のダメージの犠牲になってしまった。鉄の胃袋の彼が抜けるのは痛すぎる。
「…そんな、っ、桃先輩、…!うっ、…ぐす、…」
「越前…!」
「泣くな越前。…死んでいった仲間の遺志を継ごう。」
死んではないが。隆くんも国光くんって変にこういう時の悪ノリすきだよな。残ったメンバーは俺、貞治くん、国光くん、周助くん、隆くん、薫くんに、リョーマ。この中で頼れる胃袋を持つのは後者3人(+味覚が変な不二)。大して他校にはそれぞれまだ体格のよい部員が残っている。
「っ!!ん!!!ゲホッ!!ゲホゲホゲホッ!、わ゛、ぁ…これ、からっ…っゲホッ!」
「先輩!」
「!!っしっかりしろ…!これは…何か仕掛けられているな。」
誰につけた肉を口に入れた瞬間に舌を突き刺すような痛み。一気に体が熱くなり汗が吹き出す。あまりの舌の痛さに涙で視界がぼやける。薫くんと貞治くんに声をかけられるが痛みに耐えるのに精一杯で答えられない。なんだこれ、こんな調味料あったっけ。俺の異変に他校の部員もざわつきを見せる。っていうか辛いなこれ。からいからい。困ったなぁ。
「見たのね…今アイツが皿に何かを入れてたのを…!」
「フ、今頃気づきましたか。コーレーグースの恐ろしさ…思いの外かなり地味な反応でしたが。」
「うちのマネにオーバーリアクション求める方が無茶だけどね。」
六角の告発により比嘉の不正が露呈する。タレ皿に注がれた多量のコーレーグース。なるほど、奉行や武くんが脱落したのもこのせいか、一発食わされた。リョーマの皮肉にあは、と笑って見せるが結構きつい。一気に身体中に血が巡って暑くて耐えられない。ワイシャツのボタンを2つほど開けて薄手のパーカーを肩からするりと落とす。それだけでも結構涼しい。あー、舌痺れる。口の中に収めておくのがしんどくてべ、と軽く出して冷ます。確かにこれやばいかも、辛すぎて食べるどころじゃないなぁ。熱い肉とかタレやレモンの刺激で余計に舌がダメになりそう。引かない舌の痛みに下を向いて耐えていると、周助くんに片手で頬を鷲掴まれ、ぐい、と向き合わせられる。開眼した青い目が、これまた刺すように俺を涼しく睨む。氷のようでもない、けれど熱く燃えているわけでもない、厳しくもあり優しさも含んだ視線は逸らすなんて選択肢は選ぶどころか浮かばせもしない。
「大丈夫だよ。僕と蒙⚪︎タンメン行った時とどっち辛かった?こんなのまだ余裕でしょ」
「あはぁ、…そ、らけろっ…すこひ、…きゅうけ、……きゅうけぇ……むりぃ…」
「何や自分ら何見せつけてくれとんねん…。」
無駄にエロいねん放送事故やぞ、という侑士くんの言葉に反応する余裕はない。グラスに残った氷を口に含ませて冷やしながら皆が食べるのを見学。確かにこれに比べたら北極の方がキツかった。というか俺別に辛いものはまぁまぁ強いだけで好きとは言ってない。多少食えるって言ったら勝手に北極頼まれただけで。もうあの辛さは食いたくない。周助くんはその上の10辛のつけ麺を涼しい顔で食べていた。破壊的な辛さでじわじわくる唇におしぼりを当てる。じゅうじゅうと肉の焼ける音、みんなの話し声、白熱した司会、白煙が立ち込め靄がかる店内。変わり映えのない風景。…退屈だ。ただ座ってみんなが肉食ってるの見てることの何が楽しいのか。何にも楽しくない。ああ、それ俺が食べたくて焼いてたシマチョウ。周助くん俺のキムチ勝手に食ってるし。もう食える口じゃないけどさ。食ってるところ見るの飽きたから他校への偵察(というなのちょっかい出し)に行くことにした。
「やっほぉ凛くん。さっきの辛いの何?どれ?」
「!??ぃやー(おまえ)!?ぬ、ぬーやいびーがぁ(な、なんだよ)...?」
さてここから暫くは青学マネくんの視点では全く持って状況理解には繋がらないので天の声が主に務めさせていたただこう。青学から比嘉中のテーブルにのそのそと移ったかと思えば、平古場に後ろから抱きつきやがりました。あまりにも唐突に、しかも前触れもなく端からゼロ距離で詰めてくるものだから平古場どころか比嘉中一瞬何が起きたかわからず時が止まりましたよ。そんなことなど勿論気に留めるどころか気づきもせず、「凛くん髪さらさら、凛くんの髪好きだよ。」と平古場の頭に頬擦りを始める。平古場困惑。何故、青学のマネージャーは人との距離が1ミリもないんだ。何故、人と人との間にある壁が微塵もないんだ。比嘉中部員、あまりの急展開におろおろ、何も手が出ない。幼児のようにマイペースにやりたい、言いたいことをやってのけるこのマネージャー。加えて辛味効果で舌足らずが余計に拙さを出す。その癖仕草や声色、雰囲気は妙に大人びているから、沖縄の中坊どもはどうしたらいいかわからない。殺し屋の異名を持つインテリヤクザ部長もタジタジ、所詮は中坊である。田仁志は、肉を食い続ける。
「あ、これぇ?さっきのからいの。きれいないろぉ。なんだっけぇ」
「こ、…コーレーグース…」
「そうそう、こぉれぇぐぅすぅ〜」
あは、と首をこてんと擡げて下から見上げるように平古場の顔を見て笑う。不覚にも可愛かった。言い慣れない名前にイントネーションが覚束ない。口調がふわふわとあどけない癖に、下がる目尻は怪しい。長い袖から覗く指で小瓶を揺らす。あざとい、いや、こいつは素でやってるからあざといとは言えない。こんな害悪マネージャー、さっさと引き剥がせばいいのに、さっさと振り払えばいいのに、青学のテーブルに強制送還すればいいのに、なんだかこのゆる〜い時間が嫌ではない。ぬる湯の露天に浸かっている気分である。田仁志は、肉を食う。
「めっちゃからかったよ、まだくちびるはれてる」
「ぬっぬ、ぬぬ、ぬー(なっな、なな、何)...!」
青学マネのアプローチ(ではない)に意識せざるを得ない、というかもう意識しまくり、寧ろ意識しないように必死になりすぎて余計に意識しまくっている平古場。素数を数え、故郷の母が作るラフテーを思い出し、おばぁが昔言っていたような言ってないような名言っぽい何でもないことで意識を逸らすのに一生懸命で焼けた肉をひたすら割り箸でつつく。その手を取り、ほら、と自分の唇に押し当ててくる。ふに、と指に伝わる柔らかい感触。未だ熱を持った唇、隙間からこぼれる、負けないほどに熱い吐息。紅潮した頬、汗に濡れ張り付いた前髪に、曖昧に涙で揺れる瞳(全部コーレーグースのせいです)。
「このまま(舌が)バカンなったらきみたちのせいだなぁ…?」
「っっぅ゛ダフッッッ!!!!!!」
「ひ、平古場くーーーーん!!!!」
中坊の理性、終了。比嘉のテーブルに並んだ赤肉に平古場の、これまた赤い鼻血が飛ぶ。殺到しその場に大の字で倒れる平古場。いくら素行不良な問題部員とはいえ、所詮は中学生である。況してやその相手は言葉と仕草と雰囲気で相手の心をゆる〜く毒しす無自覚合法ドーピング男。今頃苦手なゴーヤをあーんしてもらって美味しく食べている夢で見ているだろう。
比嘉 平古場、脱落。
「帰りなさい貴方は!!他校の邪魔をするなど卑怯ですよ!!」
「てめぇが言えた口じゃねぇがな。」
全く、とため息をつき網の交換を提案する木手。しかし何故かこの時ばかりは甲斐がアホだった。それはそれはもうアホだった。肉が乗ったままバイキングホーンで網を返し、漏れなく全員の額に焼きたてのカルビが鎮座。とても器用な、アホだった。
比嘉中、脱落。
何がしたかったんだ、比嘉。
「次のドリンクは何だ?俺様が直々に呑んでやるよ。」
さて天の声に変わって俺。出されたティーカップのホットコーヒー。色も汚くないし匂いも少しキツいけどコーヒーだ。その普遍的な見た目に警戒心など微塵も持たずに口をつける景吾くん。侑士くんの制止とドリンクの説明も間に合わず微動だにしなくなってしまった。
「跡部よ…座ってもなお君臨するのか…。」
「いや君臨はしてへんと思うんやけどぉ。」
やっぱり国光くん悪ノリすきだよな。口をつけたまま失神するも何とか持ち直す。さすがキング、転んでも只では起き上がらない。これには拍手せざるを得ない。ここまで人体に悪影響が出るものを一般的な飲み物に香りや見た目を近づけるまでに技術が磨かれているなら本格的に取り締まった方がいいんじゃないかな。貞治くん、まだ反応楽しんで破壊的な味は変えずに開発し続けているけど、これで味が問題なかったら確実に化学兵器として軍が起用し始める。そもそも、言い出しっぺが本人とはいえ財閥の御曹司に飲ませてこれで永遠に目が覚めなかったら貞治くん射殺されると思う。
氷帝のテーブルに運ばれるシャトーブリアン。すご、初めて見たかも。なんか、アレだ、一頭からちょっとしか取れない貴重なやつ。貞治くんが事細かに説明してくれて、ほー、と聞き入ってしまった。俺は別に高い肉より食い慣れた肉のがうまいと思っちゃうけど。一回サーロイン齧って脂の多さに母さんに残り押しつけたっけ。
「偽物だよ。…普段食い慣れた俺には、肉質、脂の入り方でわかんだよ。…さては乾…食ったことねぇな?」
さすがキング(2回目)。確かに食べ慣れてそうだ、むしろ本物のシャトーブリアンは全て跡部家の厨房に仕入れられているかもしれない。あり得なくはない。貞治くんは図星を突かれたのか、わなわなと狼狽出したかと思えば、急に氷帝のテーブルに向けてダイブし始める。どうしよう気が触れたらしい。未だ高熱で肉を焼き続ける網の真上をタッパのある体が通過しようとする。その光景は、何故か一つの映像作品を見ているようで、ゆっくりと流れていく(気がする)。国光くんの阻止、咄嗟の行動にその手は狙いを外れ、貞治くんのスラックスの裾を掴み上げる。腹いっぱいでベルト緩めてたんだろうなぁ…目の前に曝け出される、…まぁ何かとは言わないでおくよ。倒れ込む先にあるのは灼熱の、もう見ていられなくて目を硬く閉じ、耳を塞いで肩をすくめて構える。指で塞がれこもった耳に届く生肉の焼ける音と断末魔。食欲失せてしまった。
30皿を超え、重ねられた大皿はだいぶ高く積み上がっている。コーレーグースのダメージも落ち着き再び箸を動かしていく。薫くんが焼けるたびに取り皿に置いてくれる。なんだかんだ世話焼きのいい子だよねぇ、薫くん。一切れ口に入れては二切れ乗せられ、二切れ食べれば四切れ乗せられ、ドリンクで少し箸を休めれば二切れ乗せられ…こちらもこちらで積み上がっていく。トイレ行く間に覗いた外に見えた屍の山みたいだ、とぼんやりした頭で考える。ちょんちょん、とレモンだれに肉をつけてゆっくりゆっくり咀嚼する。最早塩もタレもお役御免、俺はもうレモンしか受け付けない。
「…サンチュ欲しいんだけど。」
「草入れる暇があんなら肉入れてくださいよ。」
「…ちょっと休憩、」
「さっきまでしてたじゃん。」
バッサリ切られた。薫くんとリョーマはそれ以降何も言わずに黙々と食べ進める。国光くん、隆くん、周助くんもペースは変わらず焼けた肉を平らげていく。対して、一向に減らない取り皿の肉の山。お察しの通り、もう限界。箸で持ってはみるものの、その煌めく脂と肉特有の匂いに胃がムカついてくる。おかしいな、食べ始めはあんなに幸せだったのに、今全然幸せじゃない。けれど最早リタイアは許される雰囲気ではない。どうしたものか。
矢⚪︎に電流走る。
いや、俺に電流走る。
他校に食べてもらえばいいか。
これ君のノルマね、と先ほど渡された肉の皿を持ち、四天宝寺のテーブルにつく。
「金太郎くん、お肉好き?」
「わい?めぇーーっちゃ大好きやでぇ!牛さんならいくらでも食えるわぁ」
「そう、よく食べる子大好きだよ。俺の分もあげようなぁ。はい、あーん」
隣に座り、甘やかすように優しく撫でる。此方に凭れさせるようにそのまま頭を引き寄せる。撫で続けながら焼けた肉を口に運んでやる。素直にパクつく姿は可愛い。美味い?と子をあやすような声色で問い掛ければ、これまた親に甘える子どものようなあどけない表情をする。
「….ン!!!????何ナチュラルに青学の肉食うとんねん!」
「はっ、白石ィ、わいつい食うてもうたぁ……」
「あは、素直でかわいい。親御さんの育て方がいいんだろうなぁ?」
よしよしとかき混ぜるように赤く逆立った髪を撫でる。その焦った顔も怒られた時のいじけた顔もいじらしく見える。弟を見てるみたいでキュンときてしまう、金太郎くんの顔を見ながら撫で続けていると、次第に口角が下がり眉も歪に歪んでいく。どうしちゃったかな。まだ体が育ち切らずやや短い腕が胴に回ってくる。ワイシャツの上に羽織っていた薄手のパーカーが握りしめられシワになっている。
「あんな、俺ら学校ぐるみで泊まっとるし、一日ン中でもあんまり父ちゃんにも母ちゃんにも会われへん…。赤ん坊ちゃうから寂しいなんて言われへんけど、もっと会いたい…」
「あは、甘えんぼさんだ?…そうだな、あんな遠くから全国目指してきてるもんな。寂しいなぁ。」
2歳しか変わらないとはいえ、その2歳って大きいよなぁ。よしよし、たくさん食べて心を満たすといいよ。ぐずぐずと堪えながら差し出した肉を咀嚼していく。四天宝寺他メンバーに蛇の如く、獅子の如く睨め付けられている。こわぁ。そんなに睨まなくてもいいのに。それに目的は青学の肉食べさせることだけど、何より声かけてみたかったんだよね。金太郎くん、明るくてはつらつしてるから。銀くんも腕怪我して食べ辛そうだし手伝ってあげよう。ついでに蔵之介くんの口にも肉を運んであげる。
「焼肉美味しいなぁ?」
「クソ、このゆるゆるゼロ距離野郎かなわんわ…!雰囲気に流されて食ってまう…!!」
「あは、よく言われる。」
お肉手伝ってくれてありがとう、助かったよ、と笑顔で手を振ると2度とくるな、と恫喝された。ひどいなぁ。
「…ばーねさん。」
「あ?…ぁんだよ、」
「あの、…」
そっと肩に手を置き、耳打ちをする。
肉手伝ってくんない?
そう一言。特別彼とは親しいわけじゃない、なんせ東京と千葉だ、練習試合や関東大会でもない限り会うことはまずない。当然、呼び方も"春風くん"だけれど、せっかくだしあだ名で呼んでみた。だってなんかみんなでご飯食べたら仲良くなれた気がするじゃん?なんで青学の肉食わなきゃなんねんだよ、と頭を軽く小突かれた。痛いなぁ。小突かれた所を手で押さえて笑って見せるとため息をつかれた。えー、割と真面目にダメな感じ?
「えぇ〜。…六角一番頼りにしてたんだけど…残念。」
「、え」
「なぁんだ。じゃあいいや。氷帝にお願いしてみる。ごめんな邪魔して。ばいばーい。」
手伝ってくれないならいい。別に他に頼めるところあるし。一番食ってくれそうだったのになぁ六角中。団結力強いし。でも嫌ならしょうがないよな。強制できるものでもないし。立ち上がると手を引かれる。その手は自身ありげに引き止めるものではなく、懇願し縋るような力の入り方だった。
「待っ!わかった手伝う!食う!食うから!!こ、これくらいみんなで分ければ、…!!」
「え?いいよ別に。食べてくれるとこにお願いするし。大丈夫だから。」
「な、ぁっ、頼む食わせてくれ!なんでもするから!俺たちに食わせてくれお願いだ!」
「本当?じゃあお願いしようかなぁ。」
「あ、…ぁ、ありがとう捨てないでくれて、ちゃんと食べるから…!!
「またいつでも頼って欲しいのね、ま、待ってるから…!」
なんでこっちがお礼言われているのかわからない。それどころか六角4人全員こちらに手をついて頭を下げている。なんでそんな死にそうな時に救いの手が伸びたみたいな顔をしているんだろう。まぁ食べてくれるならなんでもいいや。少し戯けてバネさんの肩に頭をずい、と押し付けてもう一度、ありがとう、と笑ってみせてから、空皿を持ってリョーマの隣に座る。
バネさんずるいぞあんな密着して!うるせぇ僻んでんじゃねぇよ!天根ヒカルは甘られたい…プッ!うるせえダビデ!!僕がたくさん食べるのね。はぁ?!抜け駆けは許さないからな!ダメだあいつからもらった分は俺が食う!さっきみんなで分ければとか言ってただろ!?大体お前はいっつも…!んだと!?サエさんだってそんなんだから…!
なんか聞こえるけど何でもいいや。次何飲もうかな。今度はカルピスとかにするか。
「ナイス。」
「みんな優しいよなぁ。」
拳を軽く合わせて汗をかいた烏龍茶のグラスに口をつける。
「うわわわ…メンヘラ製造機だにゃ…!!」
「さすが合法ドーピング。六角早速サークラ起きとるで…こっわ。」
運ばれた最後のドリンク、炭酸が踊るフルーティな香り、カランと氷が揺れ涼やかな音を立てる。重たい肉の香りが充満した店内、爽やかな香りに気分がスッキリと澄んでいく気がする。既に皆が満腹のその先を越えようとしている。胃に血が集まりろくに働いていない頭は失念している。
これが乾汁であることを。
耳を劈くリョーマの声。口からコーラを垂れ流し、卒倒し痙攣までしている。抱き抱え軽く頬を叩いてみても白目をむいて目を覚ます気配がない。甲羅。スッポンの生き血と甲羅の入った濃厚なエキス。なんでこんなものを普通のコーラと変わらぬレベルまで仕上げられるのか。そこまで仕上げられるなら、味も仕上げてきてくれ。
「ほらぁ!コスいことするから青学しっぺ返しじゃぁん!!」
「へぇー初っ端司会に逃げるのはコスくないのかぁ。」
カラン、金属が落ちる軽い音。肉の焼ける音も、人の声も霞むほどに、その軽やかな音は店内に響き渡る。
「…もう、食えません。」
此処にきて好機、氷帝頼みの綱の崇弘くんが脱落。向こうは残るは景吾くん一人。あの高級胃袋が庶民の飯屋の肉を食うどころか受け付けるとは思えない。氷帝はここでリタイアと言っても過言ではなくなった。流石に食べ盛りのリョーマが抜けて食えないとかは言っていられない。カルピスを飲みながらゆっくりでも食べ進める。極力脂を落として口に運ぶも、その重さが胃にのしかかる。受け付けたがらずせり上がりそうになるのをぐっと堪え、大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせながら嚥下する。あー、真面目にサンチュほしい、サンチュあればまだ多少食べられるんだけど。
コト、
「?、…何これ、頼んでないんだけど。」
「あちらのお客様からです。」
「…え、」
目の前に置かれたシャーベット。俺の席にだけ置かれたオレンジ色の、凍らせた器がより涼しく焼けた胸に風を舞い込む。店主が指すのは、氷帝のテーブル。氷帝で残っているのは、彼だけ。
「庶民の飯だろうと、至高の飯だろうと…楽しく食わなきゃしょうがねぇだろ。食事は嗜みだ。…もうそれで終わらせておけ。」
「景吾くん……、」
他校の、言わばこの場では敵から送られた物。手をつけ難い、けれど体が求めて仕方がない。スプーンを持ちかける手に周助くんの手が重なる。わかってる、わかってるけど…。
もう、限界…、
「……う゛、ぐ、…ひぐ、おい゛し゛い゛ですぅう゛……!!」
「え、泣いとるん?やば、なんやアイツ」
口の中ですぅ、と溶け、オレンジの爽やかな酸味が口から胸から腹から全ての苦しみを取り去る。体が安心している。心が晴れ渡っていく。まるで夏の涼やかな夜明けが訪れたように。俯き溢れる涙はテーブルに落ちた肉やタレの脂と混ざることなく、その清らかさを保ったまま。低く、そしてどんなに遠くどんなに人ごみに紛れても振り返ってしまいそうな程に通る、自信に満ちた声で名を呼ばれる。滲む視界を拭えば、氷のキングが見せるとは思えないほどの穏やかな笑み。
「お前、青学辞めて氷帝(のテーブル)にこい。そして俺の為に(氷帝の肉を焼き)尽くせ。俺が責任取って(食って)やる。」
「……うん♡」
「うん♡じゃないんだけど。」
「アイツアイス1個で寝返ったぞ?!!」
「ああいうメンヘラ製造機は大概輝いとる相手に弱いもんや。」
「跡部は恐らく自分で肉を焼いたことがない。焼ける相手ほしかったんだろう。」
だって限界まで虐め抜かれてからの最高のご褒美なんて即堕ちするしかない(※跡部が虐め抜いたわけではありません)。それはもうお口直し甘責め完堕ちだよ。キングには勝てなかったよ…♡周りからのブーイングがすごいがもうどうでもいい。どの道もうこれ以上食べたら真面目に吐き戻してしまうし、脱落同然だ。なら別に肉焼いてやるくらい構やしない。「焼け、樺地」と早速手癖で名前間違えられてるけどいいや♡今はキングについていくと決めた。キングが樺地っていうなら俺は今は樺地だから。ウス♡キングの体に寄りかかり身を預けながらテーブルに置かれた壺肉を網に乗せる。鼓膜を裂くようなタレが熱に弾ける音。舞う黒煙。火が強すぎた?それにしては煙しか出ない、というか目、あれ、痛……
「あの壺…!!」
壺に書かれた乾の文字。まさかあのつけだれが乾汁…?だとしたらまずい、この煙に含まれた有毒成分を吸い込んだら5分で肺が腐る。腐海レベルの毒性だこれは。対決どころではない、早く店の外に出ないと。荷物も靴も全て置いて外に飛び出す。そして軒並み全員、駐車場の車輪止めに足を引っ掛け屍の山の一部に。重い、抜け出そうと試みるも、乾汁の有毒ガスを吸った体は言うことを聞かず、次第に意識が薄れ、ぷつりとそこで記憶が途絶えた。
「…あれなんで俺らこんなとこで寝て…体痛ァ…」
「…さぁ。」
閉店した焼肉屋の前。昨日みんなで食べにきたのは覚えてるけど、はて、なんで六角だの比嘉だのの他校が積み上がってんのか。…ダメだ、思い出そうとすると頭が痛くて靄がかかる。腹が苦しいからいっぱい食ったのは想像つくけど。
昨日一体何あったんだろうなぁ。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。