衝撃で、混乱しているようだ。
まだ幻覚だか何だかは抜けきっていないらしい。
………当たり前だ。
だって、まだ、元凶がいる。
太宰さんが心配していたのはこの事だったのかな。
…実は、太宰さんの進言で
私は今、銃を所持している。
国木田さんの異能で具現化したものだ。
懐の、その重さに手を触れる。
ひやりと冷たい。
ちゃき、と。
かつて資料で学んだ通りに安全装置を外す。
何となく、だけれど。
このまま彼の前から逃げる事は出来ないし、してはいけないと思った。
また、被害を出してはいけない。
その為にも、私は─────
彼を…
銃口が、小さく震える。
その先には、
男の子が何も言わずに此方を見ている。
…私は、何をしてるンだろう。
撃つの?撃たなくては?
でも、撃ってしまったら、私は…
中原さんに言われた言葉が蘇る。
呑気に笑ってる方が佳いッて、
そう、言ってくれた。
心臓が五月蝿い位に鳴っている。
指先が痺れる。
掛けられた指にはまだ力は入らない。
でも、銃口はずらさない。
確りと捉えたまま、
ただただ混乱に身を任せている。
ぽろりと、言葉が零れた。
これ以上の犠牲を出さない為にも、
私は彼を無力化しなくてはいけない。
でも…
殺すの?彼を?
まだ年端もいかぬ少年を?
彼から未来を奪うの?
…私にそんな資格などないはずなのに。
なんて、弱いんだろう。
優柔不断で、臆病で。
脳内がこんがらがって、何も出来ずにただ銃を構える私に、その男の子が言った。
背後から鋭利な刃物に刺される。
………ような、錯覚に陥った。
見える。…視える。
居るはずのない、死んだはずの人間が。
彼の異能…?
否、違う。ただの幻覚。
私の心が弱いだけ。
─────お母さんの幻覚は。
助けて、扶けてと叫びながら業火に消えた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!