第66話

【51】
12,206
2018/05/10 10:29
中島敦
中島敦
あなた…ちゃん…?
あなた

敦くん、もう暫しの辛抱を。今、扶けてあげますから!

衝撃で、混乱しているようだ。
まだ幻覚だか何だかは抜けきっていないらしい。

………当たり前だ。

だって、まだ、元凶がいる。
夢野久作
夢野久作
……、
太宰さんが心配していたのはこの事だったのかな。

…実は、太宰さんの進言で
私は今、銃を所持している。

国木田さんの異能で具現化したものだ。


懐の、その重さに手を触れる。

ひやりと冷たい。





ちゃき、と。

かつて資料で学んだ通りに安全装置を外す。





何となく、だけれど。

このまま彼の前から逃げる事は出来ないし、してはいけないと思った。



また、被害を出してはいけない。

その為にも、私は─────

彼を…




銃口が、小さく震える。

その先には、
男の子が何も言わずに此方を見ている。



…私は、何をしてるンだろう。

撃つの?撃たなくては?

でも、撃ってしまったら、私は…



中原さんに言われた言葉が蘇る。

呑気に笑ってる方が佳いッて、
そう、言ってくれた。



心臓が五月蝿い位に鳴っている。
指先が痺れる。
掛けられた指にはまだ力は入らない。

でも、銃口はずらさない。

確りと捉えたまま、
ただただ混乱に身を任せている。
あなた

…如何して…?

ぽろりと、言葉が零れた。

これ以上の犠牲を出さない為にも、
私は彼を無力化しなくてはいけない。


でも…
殺すの?彼を?

まだ年端もいかぬ少年を?
彼から未来を奪うの?

…私にそんな資格などないはずなのに。


なんて、弱いんだろう。

優柔不断で、臆病で。
夢野久作
夢野久作
…お姉さん、優しいんだね。
脳内がこんがらがって、何も出来ずにただ銃を構える私に、その男の子が言った。
夢野久作
夢野久作
引き金を引く?
───僕を、殺すの?
あなた

あ…そ、それ、は…

背後から鋭利な刃物に刺される。

………ような、錯覚に陥った。


見える。…視える。

居るはずのない、死んだはずの人間が。
あなた

おか…あ、さん…?

彼の異能…?

否、違う。ただの幻覚。

私の心が弱いだけ。



─────お母さんの幻覚は。

助けて、扶けてと叫びながら業火に消えた。

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