「どうして!どうして華が死んじゃうの!」
「仕方ないだろ、運命、だったんだろ…」
「華…目を覚ましてよ…!」
体育館のステージの上。舞子がセリフを言ったところで、先生から声がかかった。
「うん、今日はこの辺で終わろうか」
時計は18時を指している。もう下校時刻だ。
先生の話を聞いて、みんな帰り始める。
「かのーん!ばーいばい!」
友達に手を振って、私は職員室へ向かう。体育館の鍵を返すために。
「失礼します」
職員室には、まだ、たくさんの先生が残っていた。学校はブラック企業だ、と言われるのはこういうところなんだろうな、と思いながら鍵を返す。
「あ、花音!」
職員室を出ようとしたところで、甲斐先生に呼び止められた。
「はい?」
先生は私を手招きして呼んだ。
「これ、明日の練習でみんなに配ろうと思ってるんだけど、どう?」
先生が見せてきたプリントには、先生から劇に出る人、一人一人へのコメントが書かれたものだった。
「これって……」
「文化祭まであと一週間だろ?前日に配るよりも、こっちの方がいいかなって思って」
プリントには、手書きでコメントが書かれていて、先生の思いが伝わってきた。
「どう?ちょっと重いかな?」
「全然っ!重いことないです!めちゃめちゃ嬉しいです!」
それを聞いた先生は、少しほっとした表情を浮かべた。
「じゃあ、明日これ配るから、花音も楽しみにしとけよ」
「はい」
そう言うと、私の手に何かを握らせた。
「じゃ、呼び止めてごめんな。もう暗くなるから早く帰れよ」
そのまま、半ば無理やり職員室から出された。手の中のものを確認すると、
「………鍵?」
私が握っていたのは、車の鍵。付箋がついていて、
『一緒帰らない?』
と書かれていた。
久しぶりに先生と話が出来る!そう思うと、自然と笑みがこぼれる。
浮ついた足取りで靴箱に向かう。靴を履き替え、先生の車に向かう。まだ先生は来ていない。車から少し離れたところで先生を待っていると、先生の声が聞こえてきた。
「あ…」
玄関から出てきたのは、甲斐先生と、河野先生だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!