やがて絞り出すような声で、母親がレキャットに伝えた。こういう時、女は強い。マリアは生憎まだその強さを身に付けてはいないが。
こうしてマリアの入学希望は受理され、実家からの絶縁に一歩近づいた。同時に婚約者の顔合わせの日も決まり、一つ選択を誤れば破滅へ真っ逆さまの道を歩き出すことになった。
姉はマリアの婚約相手が公爵家の人間だと知ると流石に自分の我儘が通らないと思ったのか、拗ねて暫く部屋から出て来なかった。マリアはフラフラとした足取りで部屋に戻りメリンダに心配され、彼女の入れたロイアルミルクティーで漸く平生を取り戻した。
マリアはメリンダの手を握り、落ち着けと頭の中で繰り返す。大丈夫、大丈夫だアタシ。上手くやればいい。失敗したって、方法は他にいくらでもある。アタシには魔神達がいる、メリンダがいる、モンタがいる。
やってやるよ畜生。マリアはダンッと踵で地面を蹴りつけた。マリアが苛立った時のその行動をジッと見ていたメリンダの顔がほんのり赤らんでいたことに、マリアは気付かなかった。
それからマリアは顔合わせ先で失礼の無いようにと散々言われ、当日やってきたメイド達にあれよあれよと着替えさせられ、馬車に乗せられ冒頭に至る。
頭の中のBGMはドナドナだ。
ある晴れた昼下がりに公爵家へと続く道。タウンコーチがゴトゴト男爵令嬢乗せていく。嗚呼ドナドナ。踊れドナドナ朝が来るまで、いっそ全てがスラッグで腐るまで。
生きて帰れるだろうか。否、帰るのだ。カードは今日も持っている。帰ることは出来るだろう、頑張ろう。
こうして、|私《わたくし》マリアは本日婚約の顔合わせに行ってきます。一言で言おう。くそったれが。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!