私が落ち着くと、大毅は「帰りにくいだろ」と言って大毅の家に入れてくれた。
「茶飲むか?」
「大丈夫……ありがとう」
「おう」
しん、と沈黙が落ちる。
……何か言わないと、申し訳ない。何から言おう……待ってた理由とか説明した方がいいかな。
「今日ね、綾斗さんとデートの予定だったの」
大毅が黙ったまま私を見た。
私は話を続けた。
「10時半に待ち合わせだったんだけど……綾斗さん、来なくて。いつか来るって思って待ってたけど、全然、来なくて」
「あぁ。そうだったんだな」
声が震えてきた私に、“無理して喋らなくていい”と言うように大毅は言った。
……こんな話、聞きたくないはずなのに……。けどその優しさに、かなり救われてる。
「とりあえず明日からしばらくコンビニ行くな。気持ちの整理つくまで。な」
「……うん」
素直にこくんと頷いた。大毅が元気づけるような明るい笑みを浮かべる。
笑いかけられるの、久しぶりな気がする。もちろん、自然な笑顔じゃないだろうけど。
なんだか大毅を利用しているようで、私は罪悪感を感じて立ち上がった。
「じゃあ、私そろそろ帰るね。母さんには適当に言うよ」
「もう平気なのか?」
「うん。ごめん、ありがとね。じゃあ」
笑顔で大毅の部屋のドアを閉める。
……本当は、全然大丈夫じゃない。でも、だからって大毅に頼るのは違うよね。
私は一階への階段を、一段一段踏みしめて下りた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。