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「しげ!しげの彼女めっちゃ可愛いなぁ!」
「そうかぁ?普通や普通」
「やっぱラブラブか?(笑)」
「彼女のこと好き?」
「それ聞きたい!どこが好きなん?」
「あーもう!うるっさ!」
放課後の教室でクラスメイトと談笑する彼。
一緒に帰る約束をしていたから彼の居る教室に来た。
けれど、この中に入っていくのは気が引けるし、何よりそんな度胸はない。
ドアの近くで教室の中をチラチラ見ていると、こちらに気付いた彼と目が合った。
「あっ、ほんじゃ俺帰るわ!また明日!」
「あー!逃げたぁー!」
「お前がふざけるからやってー」
ニッと笑ったかと思えばカバンを掴んで勢いよく教室から出てきた。
『喋ってたのに、ごめんね?』
「ん?別に大丈夫やで」
掴んでいたカバンを肩にかけて制服を整える。
「ほら、はよ行こ」
『うん』
私の手を取って歩きだす。
『へっ、』
「っあ、ごめん」
あっさり手が離れてしまった。
違うのに、そうじゃないのに。
今日はやっぱり色々とおかしい。
『どうしたの、今日』
「何が?」
『何か変だよ』
「別に?」
『んー、違和感』
こめかみをポリポリ掻きながら少し前を歩く。
下駄箱に着けばそれぞれ靴を履き替える。
やっぱり大毅くんが早かった。
「帰ろ」
『うん』
もう寒い。
長袖のシャツもブレザーも、それだけじゃ足りないくらい。
青とオレンジが混ざった空には、白い息が溶けて消える。
手も冷たくなってブレザーのポケットに突っ込む。
「寒いなぁ、」
『もうすぐ冬だね』
「冬、何しよか」
こちらを向いて首を傾げる。
『何がいいかなぁ』
「やっぱりイルミネーションとか見たいん?」
『そうだなぁ、綺麗だし行きたいかな』
「ふぅん、」
何故だか少し不機嫌そうな彼。
『嫌なことでもあるの?』
「なんで?」
『機嫌悪そう』
「んー、まぁ」
『もう、どうしたの』
少し悩んでから、ふぅ、と息を吐いてこちらを向いて立ち止まる。
「さっきのやつら、おったやん?」
「あなたのこと可愛いとか、さ、言うてて」
「好きなとことか聞いてくるし、」
「めっちゃ嫌やった…」
『…やきもちだ』
そう言うと、ほんのり顔を赤く染める。
「やから言いたくなかってん、」
『嬉しいよ?』
「俺はいや」
『ちなみに好きなとこは?』
そう聞くと眉間にシワを寄せてこっちを睨んでくる。
『言ってくれないんだ、好きなとこ無いんだ、』
わざと拗ねたフリして俯いてみると頭の上で慌てている。
「ちょ、ちゃうねんて、」
『だって、好きなとこ何も言わないし』
「…好きやから、ちゃんと」
『どこが?』
「ほら、笑った顔とか…可愛いし、」
『可愛いとか思ってるんだ?』
「あー、もう!うるさっ、行くで!」
くるっと方向転換して、ずんずん先に進んで行ってしまう。
『待ってよ!』
「遅い」
『大毅くんが早いの!』
「そんなことないし」
駆け足で隣まで行くと、言い合いながらも大毅くんの左手が私の右手を捕まえた。
冷えた二人の手がじんわり暖まる。
ふと見た横顔は、沈みかける夕陽に照らされて赤く染まっていた。
『ねぇ、どのくらい好きなの?』
少しからかうように聞いたのに、
「…大好きやし愛してるわ。あほ、」
なんて言うから、やっぱり彼には勝てない。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。