逃げ続けて-どれくらい経っただろうか。
最果ての【世界】は恐らくここになるのだろうが…。
いくつもの魔術を解析し新たな武器、兵装として自分のものにした。
そんな自分は-枯れ果てた大地とはかけ離れた緑の地面を見下ろしていた。
見たことのない草花。
平和そうだと思った。
少女は-疑問に思った。
少女のもといた場所-世界は既に戦火に巻き込まれ消えたからだ。
…向こうから誰か歩いてくる。
そしてそれは自分に向かって手を差し伸べた。
機械と、悪魔の混血個体である自分に、恐れることなく笑顔で手を差し伸べたのだ。
手を差し伸べた方-優しそうな【悪魔】は【死魔】と聞いて明らかに驚いていた。
そう言いながら悪魔もとい【聖魔】の少女は6枚の翼のうち、2枚にだけある宝石をシャラシャラと鳴らした。
-死ぬ?
機械には死ぬという概念がない。
よって、死ぬ、が、わからない……会話が続けられない。
【聖魔神】レグジェ・A・フォスフォリアと【闇魔神】アルス・スピネル・ティフォーユは喫茶店で話していた。
ティフォーユは昼間の明るさが嘘のように消えた夜の景色を窓から眺める。
高地に建てられた喫茶店【リフェール】は窓からの眺めがいい、一言で表すなら素敵な店、そんな喫茶店だった。
【最果ての世界】-リル・フェアリエルの中心地が煌めいている。ティフォーユは-見慣れたその景色から目を離した。
ティフォの報せにレグジェは苦い表情になった。
【灰色】-リル・フェアリエルの2種類の民のどちらにも属さない厄介な存在。
ひとつは【聖魔神】レグジェの治める巨大天空都市『アレイ・ディフェール』に住む『天空の民』。
もうひとつは【闇魔神】ティフォーユの治める超巨大都市『ディエロ・アウシェン』に住む『影の民』。
彼らの違いは髪色、目の色、得意とする属性。
【灰色】の場合-光と闇、両方を得意とし髪色は銀髪または灰色。目の色は紫や黒。
光と闇の均衡を乱す可能性のあるそれは天空の民と影の民の間に生まれることが多いらしいが近年、どうもそれとは違った理由で【灰色】が生み出されているらしい。
特に2人は好きなどの愛情を壊すようなことはしない主義の魔神だった為、天空の民と影の民の間に生まれた【灰色】は特別な魔術を赤ん坊の頃に受けさせ、無害な存在として生かした。
『エディス・ミューア』-風魔法と闇魔法に特化した多くの魔術師の出身地。大自然に恵まれ、おおらかに育った者が多いとはレグジェも聞いていた。
海上都市『エリシア・エリシェーン』-セイレーンの住まう観光地。
断る理由はないと判断したティフォは頷いた。
ふと喫茶店から出ようとしたティフォは何かを思い出したのかぴたりと動きを止め、レグジェの方を向いた。
【界都】-リル・フェアリエルはじまりの都市とされているディエロ・アウシェンの中心部だ。
そこには様々な種族が暮らしている。
吸血鬼、天使、水妖、妖魔、人間、獣人など-皆手を取り合っている。
レグジェはそれに頷いた。
それだけ言うとティフォは兵装『偽典・天移』を典開し姿を消した。
レグジェは店員に「じゃ。つりは要らないよ」とだけ言い800円支払うと喫茶店から飛び立った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!