第13話

第1章 第11話 青い影の正体
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2024/03/20 14:04
僕達は近くの扉から1つ1つ確認して、
シャケ君を探すことにした。

しかしどの扉も鍵がかかっていて開かない…。


もしかしたら、
2人が内側から鍵をかけているかもしれないと思い、
鍵のかかっている扉は必ずノックしたが、
それで反応が返ってくることはなかった。

広い屋敷ではあるけれど、
屋外を歩き回っているわけではないから、
調べる場所なんてたかが知れてる。


シャケ君を見つけるくらい簡単な事だと、
思っていたけれど、
これは意外と大変な作業なのかもしれない…。
スマイル
スマイル
…ほんとにどこにいるんだよ…。
一直線だからすれ違わないはずだが…。
今になって考えてみれば、
最初に調べた食堂の扉やNakamu君が逃げ込んだ、
2階の部屋に鍵がかかっていなかったことは、
ものすごく、幸運な偶然だったのだろう。


5つ目の扉も開けることが出来ず、
僕達はため息をつきながら、
隣の扉の前へと移動した。


これまで見てきたドアとは形状が違って、
全体が曇りガラスで作られている。


僕の家のお風呂がちょうどこんな感じの扉だ。
Nakamu
Nakamu
ここって…お風呂?
Nakamu君が言う。
どうやら、Nakamu君も僕と同じように思ったらしい。

水の流れる音が聞こえた。
蛇口でもひねったのだろうか?

音の出どころは間違いなく、
曇りガラスの向こう側だった。
Nakamu
Nakamu
ここにいたの…?
スマイル
スマイル
いや…でも何かおかしい…。
人影がドアに近づく。

僕達は同時に息をのんだ。

違う…人じゃない。

曇りガラスに映った影は、
人間とは思えない肌の色をしていた。
Nakamu
Nakamu
ひやッッ______
スマイル
スマイル
静かに……!!!
(Nakamuの口をおさえる)
Nakamu
Nakamu
コクコクッ……!
見えない力に弾き飛ばされたかのように、
僕は扉の前から勢いよく離れた。

廊下に下がり、
全身がだんだんと震えてくる。
スマイル
スマイル
これが……"青鬼"…!
僕は2人を誘導した。

急いで離れなくちゃいけない…。

でも2人の目線ははるか彼方に注がれていて、
動く気配が感じられない。

石鹸の香りに邪魔されて、分かりにくかったが、
目の前に佇む大きな影は、
独特な香りを発していた。

この屋敷に入ってきてから何度も嗅いだ…。


<死>を連想せずにはいられない生臭い香り…!






ガンッッッッッ!!!!



突然扉が向こう側からたたかれた。


一体どれだけの力を持っているのか、
建物全体が大きく揺れ動いた。

扉の傍にいた、2人の体が廊下にグッと寄せられた。

曇りガラスにヒビが入った。

もう1度たたかれたら、
粉々に砕けるのは明らかだった。
Nakamu
Nakamu
に…逃げよう……!!!
僕等は決心して急いでその場を離れた。

階段を半分ほど登ったところで、
後ろから大きな音が鳴り響いた。

ガラスの砕ける音が耳に届く。

風呂場に潜んでいた青鬼が、
曇りガラスを破って廊下に出てきたのだろう。





一体どんな怪物なんだ…?


この目で確認したかったが、
振り返る余裕なんてなかった。

2回まで一気に駆け上る。

全力で走ったせいなのか、
あるいはとてつもない恐怖を感じたからなのか、
僕の心臓はこれまで経験したことのないくらい、
踊っていた。

Nakamu君が階段を上り終えて、
子供部屋の扉を開き、僕等に声をかけようとした…。









その時だった____
バギンッッ!!!!

ドガアァンッッッ!!!!
Nakamu
Nakamu
ガンッッ…(頭を打つ)
……ス……マ………ドサッ
僕は驚きすぎて動けなかった。

子供部屋の前に、
ドアの半分が歪んで子供部屋をふさいでいる。

青鬼が…ドアを投げた…?

少しの隙間しかなくて、
スマイル君でもギリギリで…。

その隙間からNakamu君が見えた。





Nakamu君はドアの破裂部分が頭に直撃して、
頭から血を流していた。

このままでは大量出血で死んでしまうかも…!

今は気絶してるだけかもしれない…。

でも…Nakamu君…!
スマイル
スマイル
Nakamuッッッ!!!!
スマイル君の大声にも驚いた。

こんなに大きな声を張るなんて…。

それほど、
Nakamu君の事を想っているのだろうか…。
階段のきしむ音が聞こえた。

青鬼は2階へと向かってきている。

足取りはゆっくりだけど、
ここへやってくるまであと10秒もかからないだろう。

恐ろしくて、
階段の方を振り返る事は出来なかった。

分厚いガラスをいとも簡単に割ってしまう怪力…。

曇りガラス越しに見た姿は、
これまで目にしたどんな動物よりも凶暴に思えた。

もしその姿を確認したら、
僕は蛇に睨まれた蛙のように、
きっと動けなくなってしまうだろう。

Nakamu君はその姿を1度見ている。

そしてスマイル君も容姿だけだが、
知っているような口ぶりをしていた。

スマイル君は決意に満ちた表情で、
子供部屋の前を離れて、
隣の扉に手をかけた。



しかし扉には鍵がかかっていて、開かない。

さらに隣の部屋に移動する。

結果は同じ……………………。







まずい……。




スマイル君の後を追いかけながら、
僕は次第に焦り始めた。

残る扉は残り2つ。

もしどちらも開かなかったら、
もう1度階段の前まで引き返さないといけない。

ドアがあるが、
乗り越えれば大丈夫だと思う…。

そうなれば、1階からゆっくりと移動している、
何者かと出くわすことになる。

スマイル君が次のノブに手を伸ばす。

祈るようにスマイル君の手元を見つめたが、
その扉も鍵がかかっていた。




残るは廊下の突き当りにある扉だけだ。

血生臭い香りが次第に強くなってくる。

この扉があかなかったら、
僕達にもう逃げ場がない。

スマイル君が最後のノブに触れる。










"扉は開かなかった"









このまま青鬼に襲われて死んでしまうのか…?



嫌だ………。




お母さんが死んだとき、
お父さんはとても悲しそうだった。


僕の体を抱きしめて、
これからは二人で助け合って生きていこうな、
と泣きながら言っていたことを思い出す。




二人で助け合っていく___




そう僕とお父さんは約束した。

その誓いを破る事は絶対に出来ない。



僕がいなくなったら、
お父さんはついに一人ぼっいになる。

お父さんを悲しませたくなかった。




行こう……!スマイル君…!
スマイル
スマイル
あなた……覚悟はいいか…?
僕と同じ考えに至ったらしい。

ドアに背を向けて、僕は前を向いた。

怪物から逃れる手はまだ残されている。


青鬼の姿を僕はまだ見たことはなかったが、
足音を聞く乖離、
動きは随分と遅いようだ。

多分、体が大きすぎて手足が天井や壁に当たる。

逆に僕の体は小さい。


ここにいる誰よりもすばしっこく、
そして俊敏に動き回れる自信がある。

2回にやってきた青鬼は、
まっすぐぼくたちの方へ向かってくるだろう。

廊下はそれほど広くないから、
階段と同様、ゆっくりしか動けないはずだ。

僕は真正面から突進して、
素早く青鬼の足元をすり抜ける。

のろまな青鬼は、
すぐに後ろを振り返る事が出来ない。

その間に背中側から攻撃すれば…!
スマイル
スマイル
策、あるんだろ?
…それにかけるしかない。
…でもうまくかどうかわからない。

そもそも…
僕はまだ青鬼を曇りガラス越しにしか確認してない。

その姿を目にした途端、
恐怖で体がすくんでしまう可能性だってある。

でも…ほかにピンチを切り抜けられる方法なんてない…!

時間もない…
とにかくやるしかないんだ…!
スマイル
スマイル
来る……。
足音が次第に大きくなった。

僕は廊下の先をじっと見つめた。

いつの間にか口の中が乾いている。
スマイル君が喉を鳴らしたのが分かった。

階段の傍で影が動く…。

対に青鬼の姿が……!

覚悟を決めて、
口を一文字に結んだ……___














その瞬間、
背後の扉が開き、
僕とスマイル君はその中に引きずり込まれた。



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