スマイル君の足音が聞こえなくなると、
Nakamu君はクローゼットの扉に手をかけて、
僕の方をゆっくり見た。
僕は小さくうなずいて、
クローゼットによじ登った。
Nakamu君は目じりを下げて、
優しく微笑むと、ゆっくりと扉を閉めた。
当然ながらクローゼットの中は真っ暗になった。
扉から差し込むまずかな光で
Nakamu君の表情が分かる程度だ。
それに…狭いな…。
この中では立ち上がる事はもちろん、
体をひねって足を延ばすこともできない。
Nakamu君と肩を触れ合わせたまま、
字っと扉を見つめるしかない。
聞こえてくるのは、
苦しそうなNakamu君の息遣いだけだ。
暗くて狭いところは嫌いじゃない。
逆に好きかも知れない。
ずっと同じ姿勢を取り続けるのはつらいけれど、
それほど苦痛は感じない。
でも…Nakamu君はどうなんだろ…?
過呼吸の後だから、
きっとこの暗闇も恐怖の対象であるはずなのに…。
それ何ここに隠れ続けるのは、
多分それ以上恐ろしい体験をしたからなのだろう。
青い怪物[青鬼]が襲ってきたといった。
スマイル君は知っていたみたいだけれど、
僕見たことも聞いたことも無かった。
・身長3メートル
・青紫色の大きな体
・頭が異様に大きく、目玉が顔の半分
そんな生き物見たことない…。
ここへやってきてからずっと感じている、
血生臭い香りは、青鬼が発しているのか…?
寂しそうにNakamu君は言った。
Nakamu君はそう言って、
自分の膝に顔を埋めた。
ううん、全然。
僕は首を横に振った。
誰にだって苦手な物はある。
僕にだって嫌いな物はある。
僕はシャンプーがめっちゃ嫌い。
顔に水がかかるのが嫌で嫌で仕方ない。
当然、水泳も大嫌い。
本当にその怪物がいるのなら、
怖いと思ってしまうことは当たり前だし、
Nakamu君はそれを見ている。
恐怖心に襲われて、逃げようとしてしまう事は、
当たり前だと思う。
自分ながらでも支えてあげたい。
リーダーだからと言って、
そんなに強がらなくてもいいんじゃない?
もしあの怪物に犠牲になっちゃったら、
もっと他の皆も悲しんでると思うよ…。
顔を上げて優しく笑ってくれた。
Nakamu君は絶望したような声で言った。
とっさに僕は背中を撫でて、
Nakamu君の事を落ち着かせようとした。
過呼吸の後にこんなに絶望してしまったら、
また始まってしまうかもしれないと思ったから…。
Nakamuは涙を浮かべながら僕にすり寄った。
そこから哀しみがひしひしと感じられ、
僕もなんだからむなしい思いになった。
急に肩に重みが来たので、
僕はびっくりした。
Nakamu君は安心で眠ってしまったみたいだ…。
でも安心してくれて僕は嬉しかった。
=???後=
数分後、Nakamu君は目を覚ました。
眠たそうに眼を擦って、
解除が出来ないスマホの電源を付けた。
光で照らされて顔が明るくなる。
その表情は歓喜に満ち溢れていた。
Nakamu君は僕の手を掴んで、
嬉しそうに小声でそうつぶやいた。
僕は何のことだかわからず、
首をかしげていた。
説明しながら、
Nakamu君は少しだけ扉を押し開けた。
わずかな隙間に片目を当てて、
外の様子を確認する。
そうつぶやくとNakamu君は扉を開けて、
ゆっくりと足を下した。
なるほど…!
Nakamu君の言うことはもっともだった。
僕たちもNakamu君の後に続けてクローゼットから出る。
全身を伸ばして大きく息を吸った。
暗くて狭い所も好きだけれど、
いつまでもいたらそのうち体が固まってしまう。
Nakamu君は緊張した顔つきで、
廊下を覗き込んだ。
青鬼に用心しているみたいだ。
血生臭い香りは感じられない。
近くに青鬼はいないはず…。
僕はNakamu君の横をすり抜けて廊下を飛び出して、
そのまま階段を下りて行った。
Nakamu君が僕を追いかけてくる。
階段を下りながらも、
僕は玄関ホールの香りに注意した。
食堂から戻ってきたときと比べると、
生臭い香りはかなり薄まっている。
怪しい気配も感じられなかった。
多分危険はないはず…。
Nakamu君の弾んだ声が耳に入った。
玄関の扉の横に表示された数字は、
すべての数字が[0]になり、
向かい側の壁には新たに赤い矢印が映し出されている。
扉の前に放置された人形が、
同じアナウンスを繰り返していた。
矢印は北、階段の裏側を示している。
Nakamu君は不安そうに進み始めた。
僕は一緒に横へ並び、歩き始めた。
今まで全く気付かなかったけれど、
会談の裏側にも玄関側と同じく、
東西に延びる長い廊下があった。
廊下の壁には右を向いた矢印が映し出されている。
僕たちはそれに従って、
先に進んだ。
つきあたりのドアにはそれまでの矢印と同じように、
赤い光を使って、文字が記されていた。
[非常口はこの先]
Nakamu君が目の前の扉を開ける。
ドアの向こうを覗き込んだNakamu君の声が、
少しだけ明るくなった。
そこはキッチンだった。
大きなコンロがいくつも並べられている。
棚にはさまざまな大きさの
鍋やフライパンがそろえられている。
Nakamu君が目を輝かせるのも当然だ。
コンロの横の引き戸が、
その向かい側には小さなドアが見えた。
引き戸には見覚えがある。
食堂で見かけたものと同じだった。
多分この部屋は食堂と繋がっているのだろう。
屋敷の見取り図を頭の中に思い描き、
僕はそう確信した。
小さなドアの表面には、
[非常口]の文字が映し出されていた。
そう言ってNakamu君はドアノブに手をかけた。
だけどその表情はまた暗くなった。
そう言ってNakamu君は悲しげに笑った。
…どうして笑ったの…?
後ろから声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、
食堂へとつながる引き戸が開き、
スマイル君が姿を現した。
冷静になって考えてみれば、
Nakamu君の言うとおりだった。
扉をロックせずに放っておくなんて、
泥棒に向かって、どうぞ入ってください、
とお願いしているようなものだ。
玄関の扉だってもともと、
鍵がかかっていた。
僕たちはシャケ君の合いかぎで
無理矢理入ってきたにすぎない。
当然、出口だってロックされているに決まっている。
この時、僕は知らなかった。
2人は知っていたのに。
2人はこの真実に気づいていたのに。
僕はそんなの知らなかった。
この屋敷をうろつく、
[青い怪物]の本当の正体を…___
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。