周東選手との出会いをきっかけに
一乃瀬梓の心は揺れ動いていた
彼女は周東の言葉と笑顔に
自分が見失っていた
「野球の楽しさ」
を思い出させてもらった
そしてもう一つ
彼女の心に一つの目標が芽生えた
それはいつかソフトバンクホークスの
一員となり
周東選手や柳田選手たちと
共にプレーしたい
という淡い夢だった
次の日から梓は練習に打ち込んだ
これまでは冷静にデータを分析し
効率的な練習を心がけていたが
今は違う
まるで幼い頃の要のように
感情のままにバットを振り続けた
舞台は甲子園
高知パイレーツ対阪神タイガース
この日の先発は阪神のエース
彼の投げる鋭い変化球に
パイレーツ打線は沈黙を続けていた
しかし一乃瀬のバッティングは違った
一打席目鋭いライナーでライト前ヒットを
放つと迷いなく二塁へ走った
相手の隙をつく大胆な走塁
2打席目フルカウントから変化球を見送り
フオアボールで出塁
そして3打席目
チームは1点ビハインドで
ランナーは一塁にいる
一乃瀬の打席に球場は静まりかえった
彼女はバットを短く持ち
相手の投手に集中した
投げられたのは内角へのストレート
一乃瀬は迷わずバットを振り抜いた
快音が響き渡り
打球はレフトスタンドへ一直線
逆転ツーランホームランだった
「うおおおおおおおお!」
甲子園がパイレーツファンの大歓声に包まれた
ホームベースに帰ってきた一乃瀬は
チームメイトに笑顔で迎えられた
その笑顔はかつてないほどに輝いていた
隼人が心から喜びを分かち合ってくれた
ベンチに戻ると監督の黒田が
静かに一乃瀬の肩に手を置いた
一乃瀬は何も言わずに頷いた
その日の試合一乃瀬の活躍により
パイレーツは勝利を収めた
西村健吾はテレビでその試合を見ていた
以前のような
もやもやとした感情はなかった
ただ一人の選手として
彼女の活躍を心から祝福していた
そして同時に一乃瀬の存在が
自分自身の成長にも繋がることを確信した
一乃瀬は周東との出会いをきっかけに
もう一段階上の選手へと成長した
そして彼女の活躍はチームの未来と
西村の心を動かしていく
試合終了後
一乃瀬梓はヒーローインタビューの
舞台に立っていた
「今日の逆転ホームラン、今の気持ちは?」
アナウンサーの問いかけに
甲子園のファンが固唾をのんで見守る。
静かに答える
しかしその声はかすかに震えていた
「打席に入った時、どんなことを考えていましたか?」
その言葉に
スタンドからは温かい拍手が沸き起こった












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!