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僕の名前はあなた。
今5歳。
僕には妹がいる。
杏莉って言うんだよ。
お父様もお母様も杏莉のことが大好き。
僕の家は少し変わってる。
僕は、お父さんやお母さんのことを「お父様」「お母様」と呼ばなきゃいけないの。
そうすれば、大きくなったとき、困らないんだって。
よくわかんない。
僕は妹に近づいたらダメなんだって。
杏莉様って呼ばなきゃいけないんだって。
杏莉様が何をしていても何を言ってもいけないんだって。
でも、こないだ杏莉様が花瓶を落としたとき、お母様に
「あなた!!!!!なんで杏莉ちゃんを見てないの!杏莉ちゃんが怪我でもしたらどうするの!」
って怒られちゃった。
…なんでだろ。
あとね。
僕は自分のことを僕って言うけど、それじゃダメなんだって。
こないだお母様に
「女の子は僕って使っちゃいけないの?」
って聞いたら、
「女の子は私っていう一人称を使え!お前は女子なんだから当たり前だろう!そんなこともわからないのか?この屑!鈍間!愚鈍!」
って言われて、いっぱい殴られた。
その日から、僕は僕っていうのをやめた。
殴られるのは痛いから。辛いから。痛くて泣いたりしたら、お父様もお母様ももっと怖くなっちゃう。もっと醜くなっちゃう。
…そんなの嫌だから。
だから、最近僕はよく公園にいる。
今日は杏莉様が保育園っていうところにいて、お父様もお母様もお仕事だから、お家にいてもいいんだけど、お家にいても僕は階段下の部屋から出られないから、つまんない。
二階には杏莉様のお部屋やお父様やお母様のお部屋があって、僕のお部屋はない。
…別にいらないけど。
僕のお部屋は階段の降りる音や登る音がして少し煩いけど、結構広いし、鼠さんと遊べるからお気に入り。
今日もそうやって1人で遊んでたら、公園に1人のお兄さんが来た。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!