👑side
最近、すちくんがおかしい。
カッターで遊んでいた日。
かすかに鼻をかすめた血の匂い。
もしかしたら…なんて、考えた。
もしかしたら美術の立体芸術で怪我をしたのかも。
でも、すちくんがそんなへまをするとは思えない。
日に日に濃くなっていく血の匂い。
今日もまた、濃くなっていたら聞く。
「なにかあった?」
それだけきけばいいんだ。
すちくんのことだからきっとなんともないよ。
大丈夫。
今日はそれを聞くためにすちくんより早く学校に来た。
教室に入るとすちくんはまだいない。
大丈夫…大丈夫…。
自分に言い聞かせる。
そんなことを考えてるとすちくんが登校してくる。
すちくんはいつも通りのんきにあくびをして自分の席へと座る。
ようわからんけど緊張してきた…(
つんと、鼻を刺すような血の匂い。
また。濃くなった。
聞かなきゃ。
何か行動に移す前に。
できるだけ自然に話しかけようとする。
すちくんを少しでも不安にさせたくないから。
いつも通りの声色で返事をくれるすちくん。
本題に入らなきゃ。
🍵side
なんで?
なんでなんでなんでなんで
なんでばれたの?
元気に振る舞えてなかった?
包帯見えちゃってた?
カッターに血でもついてた?
なんでばれたの?
なんで、なんで、
よりによって友達にばれたの?
信頼出来る、数少ない友達に
なんてみこちゃんはいうけど、こっちは図星。
ここから逃げたい。
自分をもっと汚して価値のないものにしたい。
逃げようとしたところにこさめちゃんがきた。
なんで
俺の好きにさせてよ。
関係ないじゃん。
こさめちゃんには大事な友達、いるじゃん。
なんで俺なんかに構うの?
身長が大幅に違うこさめちゃんはそれを上手く使って
上目遣いでお願いしてくる。
らんらんは自分の席から話しかけてくる。
『 うるさい 』
俺の事、なんにも知らないくせに。
みんなみんな、苦しめてるくせに。
綺麗ごといってんじゃねぇよ、
もうすぐ朝礼が始まる時間
教室から走って飛び出す。
いつの間にか涙が流れ落ちる。
ところどころで嗚咽をもらす。
誰にも、あいたくない。
いるまちゃんにぶつかりそうになる。
さっと避けて声は気にせずに走る。
はやく、家に。
自分の居場所に。
俺だけの空間に。
いるまちゃんは追いかけてくる。
バスケ部だから平均と比べれば走るのは速い。
追いつかれそうになって
また逃げて
いたちごっこ。
もうすぐ家に着く。
はいってしまえば
俺の勝ちなんだ。
そう思って勢いよく玄関の扉を開ける。
自分の部屋。
はやく。
カッター
薬
はやく。
引き出しからカッターを取り出す。
刃を伸ばす。
腕を捲る。
包帯をとる。
鍵をかけなかったからいるまちゃんは入ってきた。
カッターを持った俺。
腕には黒い線が引かれてる俺。
壊れている俺。
全てを一瞬で理解したであろういるまちゃん。
指示してきた。
別に命令される筋合いなどない。
勢いよくいるまちゃんが掴んできた手を振り払う。
カッターの刃がいるまちゃんの頬をなぞる。
いるまちゃんの血を見て正気に戻る。
なにしてんだろ、俺。
なんで他の人傷つけてんの?
いるまちゃん、汚れちゃったよ?
価値、下がったよ?
俺のせいで、
全部俺のせいで。
小さな絆創膏を渡す。
絶縁されてもおかしくはない。
部屋のドアをきちんと閉めているまちゃんは帰る。
『 たすけて 』
少しはそう思ったのに
誰も気づかないんだなぁ。
もう、実行しよう?
暇ちゃん…、
もう無理だよ。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。