〈てっちゃんside〉
あなた『てっちゃん、今日の夜ひま?』
あなたさんから届いたメッセージ。
「どうした?」
『いとこがお店を開くらしくて、
良かったら一緒に行かない?
本当は明日がオープンらしいんだけど、
今夜は特別に開けてくれるから、
人目も気にしなくて大丈夫だよ』
見慣れない、あなたさんのワンピース姿。
俺は人にバレないように変装をしている。
待ち合わせた駅で、お互い見つけるのに
少し時間がかかった。
満員電車だった。
もちろん座ることはできない。
手すりにもつかまることが出来ず、
揺さぶられるあなたさんを俺は支えながら立つ。
あなたさんは俺の腕にぎゅっとしがみつく。
俺が後ろから抱きしめているような体勢だった。
電車内が暑いから。きっとそうだ。
体温が上がる感覚がした。
カラランッとドアについたベルを鳴らして、
俺たちはレストランに入った。
俺たちを迎えたのは、爽やかなイケメンだった。
会釈をすると、
「イケメンやなぁ」と笑いかけてきた。
テーブルに料理が並ぶと、
悠月さんは「ごゆっくり」と言って去っていった。
ブンブンと首を振るあなたさん。
急に改まって、フォークを置いて
俺の方を真っ直ぐ見た。
あなたさんの表情は、
不安そうではなく、すっきりした様子だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!