第49話

44話
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2025/07/14 03:08 更新
耳を塞ぎたくなるような呻き声が、嗚咽が、肉が這いずり回る音が聞こえてくる。暗い地下墓所の床一面には、死に損なった亡骸が蠢いている。


……どうして、彼らは生きている。

死んでいてもおかしくないほどの傷を負い、身体はとっくのとうに腐り果てているというのに、どうして。


地下墓所には腐臭が満ちている。少しでも息を吸えば、気が狂ってしまいそうだった。

こんな状況で誰が動くことができると言うのだろう。全員が足を止めていると、ぽつりと八幡さんが呟いた。

八幡宮
……失念していました
八幡宮
断罪の塔には強大な魔術が掛けられているんです。そしてきっと、その効力はこの地下墓所まで及んでいる
ぐさお
魔術……ですか?
八幡宮
はい。……囚人同士での殺し合いを防ぐために、この場所では一部の人物しか『人を殺すことはできない』と


────ここで人を殺すことはできない。

言葉にすればとても単純明快で、軽く捉えてしまいそうなこと。けれど、この惨状を見た今ならわかる。それはあまりにも残酷なことだ。


殺すことができないということはすなわち、殺されることもできないということ。彼らは死ぬことができない。生き続けるしかない。

この場所において、処刑をされないということは、処刑をされるよりもずっと苦しいことなのだろう。

全身に鳥肌が立ち、思わず身震いする。



そのときふと、この話をどこかで聞いたことがあるような気がして顔を上げた。

そう、確かそれは雨の国での話。


そうだ、私たちは知っていたじゃないか。この国の歪な仕組みを。この塔では管理者に殺される以外の方法で、人が死ぬことはできないという事実を。

それなのに、地下墓所がこんなことになっているなんて想像もしていなかった。……考えが甘かった。


今思えば、この地下墓所の入り口に警備が配置されていなかった理由にも想像がつく。

こんな腐臭と死臭に満ち満ちた場所なんて、誰も警備をしたいと思う者はいないだろう。

むしろ、この死に損ないの屍たちが、この地下墓所の一番の防壁なのかもしれない。


唇の端を強く噛み締める。すると、後方から不意に声にならない悲鳴のような、か細い声が漏れた。

レイラー
ぁ……


ぐちゃり。ぐちゃり。

土と血に汚れ、腐り落ちた腕がレイラーさんの足首を掴んでいる。掴んで、震える声で訴えかける。

……殺してくれ
Latte
っ、レイラーさん!


慌ててレイラーさんのところに駆け寄って、レイラーさんの腕を掴んで引っ張って、彼女を生きている死体から引き剥がす。

レイラーさんの足首を掴んでいた死体の腕は元々強い力が入っていなかったのか、私が彼女を引き剥がせば簡単に外れた。その外れた腕は、また力無く床に落ちる。

ウパパロン
レイラーさん、大丈夫ですか?


彼女の顔からは血の気が引いていて、唇はわなわなと震えている。それも当然だろう。見るだけでも悍ましい景色だというのに、掴まれるなんて。

酷く顔色の悪いレイラーさんを心配するようにウパさんが声をかけると、彼女は静かに首を横に振った。

レイラー
……いえ、大丈夫です。行きましょう


その言葉にレイラーさんのことを見やれば、顔色は悪いままだが、震えはもう治まっていた。彼女はそのまま確かな足取りで屍を踏み越えて歩いていく。

私たちもそれに着いていくように足を進める。肉の塊の怨嗟の声が響く中を進んでいく。


同情はする。救えるものなら救いたい。……殺してあげられるものなら、楽にしてあげたい。

でも、ここで私たちに出来ることは何もないのだ。

めめさんとiemonさんのこともある。私たちがここで足を止めるわけにはいかない。

みぞれ
……あの階段を登りましょう


重苦しい沈黙の中、ひたすら歩を進める。何時間にも感じられるような数分の時間のあと、みぞれさんがのろのろと腕を上げて、前方を指差した。

階段の一番上にある扉から光が僅かに漏れているのか、それは淡く照らし出されている。

きっとあそこが断罪の塔へと繋がる道なのだろう。

ルカ
……鍵が掛かってる


階段を登り切ったところで、先頭にいたひなにいさんが鉄製の錠前を軽く叩いて顔を顰める。

メテヲ
まぁさすがに鍵が掛かってないほど
警備もザルじゃないかぁ
八幡宮
魔術で解錠は……
メテヲ
難しそうだねー。対魔術防壁が掛かってる


メテヲさんが扉を撫でる。私にはよくわからないが、魔術に詳しい人からしたら何か察せられるものがあるらしい。

すると、ぐさおさんが一歩前に進み出た。

ぐさお
……対魔術防壁はあくまで扉のみに掛けられたものですよね?
メテヲ
うん、そうだね
メテヲ
扉のみに掛けられたものだから、
扉以外に対する魔術には干渉しないよ
ぐさお
なら大丈夫だと思います
ぐさお
部位強化パースリティア


淡いピンク色の光がぼうっと現れ、ぐさおさんの手のひらを包む。その光を目で追っていれば、ぐさおさんは光に包まれた手を錠前に添えた。いったい何をしようとしているのだろう。

固唾を飲んでぐさおさんの様子を注視していれば、いやな音が耳に届く。────ばきっ。

ぐさお
よし、いけました!
ぜんこぱす
え、今壊した? この鍵壊しましたよね?
ヒナ
うわぁ、鍵バラバラになっちゃってる……
八幡宮
解決方法が思ったより脳筋でしたね
ぐさお
脳筋じゃないですよ!?


心外だとでも言わんばかりに目を見開いたぐさおさんだが、床に散らばった錠前の残骸を見ればヒナちゃんや八幡さんの意見にも頷ける。



ともあれ、道は開けた。

薄く開いた扉からは、人工照明の眩しい光が漏れている。この先にめめさんとiemonさんがいるのだろう。


隣にいるウパさんと、最後尾を守っているレイラーさん。その二人と目を合わせて、互いに頷く。

私たちは扉を開け放ち、前へと歩き始めた。




















少し過ぎてしまいましたが、ついに☆500に到達しました! 目標の一つだったので本当に嬉しいです! いつも読んでくださってありがとうございます!

まだまだ中盤なので、是非この先も楽しんでいただけたらと思います。伏線回収も待っていますので!

この物語には読み返さないと気づけないこともあるので、読み返してみてくださるともっと嬉しいです……!

では、続きもお楽しみに!

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