耳を塞ぎたくなるような呻き声が、嗚咽が、肉が這いずり回る音が聞こえてくる。暗い地下墓所の床一面には、死に損なった亡骸が蠢いている。
……どうして、彼らは生きている。
死んでいてもおかしくないほどの傷を負い、身体はとっくのとうに腐り果てているというのに、どうして。
地下墓所には腐臭が満ちている。少しでも息を吸えば、気が狂ってしまいそうだった。
こんな状況で誰が動くことができると言うのだろう。全員が足を止めていると、ぽつりと八幡さんが呟いた。
────ここで人を殺すことはできない。
言葉にすればとても単純明快で、軽く捉えてしまいそうなこと。けれど、この惨状を見た今ならわかる。それはあまりにも残酷なことだ。
殺すことができないということは即ち、殺されることもできないということ。彼らは死ぬことができない。生き続けるしかない。
この場所において、処刑をされないということは、処刑をされるよりもずっと苦しいことなのだろう。
全身に鳥肌が立ち、思わず身震いする。
そのときふと、この話をどこかで聞いたことがあるような気がして顔を上げた。
そう、確かそれは雨の国での話。

そうだ、私たちは知っていたじゃないか。この国の歪な仕組みを。この塔では管理者に殺される以外の方法で、人が死ぬことはできないという事実を。
それなのに、地下墓所がこんなことになっているなんて想像もしていなかった。……考えが甘かった。
今思えば、この地下墓所の入り口に警備が配置されていなかった理由にも想像がつく。
こんな腐臭と死臭に満ち満ちた場所なんて、誰も警備をしたいと思う者はいないだろう。
むしろ、この死に損ないの屍たちが、この地下墓所の一番の防壁なのかもしれない。
唇の端を強く噛み締める。すると、後方から不意に声にならない悲鳴のような、か細い声が漏れた。
ぐちゃり。ぐちゃり。
土と血に汚れ、腐り落ちた腕がレイラーさんの足首を掴んでいる。掴んで、震える声で訴えかける。
慌ててレイラーさんのところに駆け寄って、レイラーさんの腕を掴んで引っ張って、彼女を生きている死体から引き剥がす。
レイラーさんの足首を掴んでいた死体の腕は元々強い力が入っていなかったのか、私が彼女を引き剥がせば簡単に外れた。その外れた腕は、また力無く床に落ちる。
彼女の顔からは血の気が引いていて、唇はわなわなと震えている。それも当然だろう。見るだけでも悍ましい景色だというのに、掴まれるなんて。
酷く顔色の悪いレイラーさんを心配するようにウパさんが声をかけると、彼女は静かに首を横に振った。
その言葉にレイラーさんのことを見やれば、顔色は悪いままだが、震えはもう治まっていた。彼女はそのまま確かな足取りで屍を踏み越えて歩いていく。
私たちもそれに着いていくように足を進める。肉の塊の怨嗟の声が響く中を進んでいく。
同情はする。救えるものなら救いたい。……殺してあげられるものなら、楽にしてあげたい。
でも、ここで私たちに出来ることは何もないのだ。
めめさんとiemonさんのこともある。私たちがここで足を止めるわけにはいかない。
重苦しい沈黙の中、ひたすら歩を進める。何時間にも感じられるような数分の時間のあと、みぞれさんがのろのろと腕を上げて、前方を指差した。
階段の一番上にある扉から光が僅かに漏れているのか、それは淡く照らし出されている。
きっとあそこが断罪の塔へと繋がる道なのだろう。
階段を登り切ったところで、先頭にいたひなにいさんが鉄製の錠前を軽く叩いて顔を顰める。
メテヲさんが扉を撫でる。私にはよくわからないが、魔術に詳しい人からしたら何か察せられるものがあるらしい。
すると、ぐさおさんが一歩前に進み出た。
淡いピンク色の光がぼうっと現れ、ぐさおさんの手のひらを包む。その光を目で追っていれば、ぐさおさんは光に包まれた手を錠前に添えた。いったい何をしようとしているのだろう。
固唾を飲んでぐさおさんの様子を注視していれば、いやな音が耳に届く。────ばきっ。
心外だとでも言わんばかりに目を見開いたぐさおさんだが、床に散らばった錠前の残骸を見ればヒナちゃんや八幡さんの意見にも頷ける。
ともあれ、道は開けた。
薄く開いた扉からは、人工照明の眩しい光が漏れている。この先にめめさんとiemonさんがいるのだろう。
隣にいるウパさんと、最後尾を守っているレイラーさん。その二人と目を合わせて、互いに頷く。
私たちは扉を開け放ち、前へと歩き始めた。
少し過ぎてしまいましたが、ついに☆500に到達しました! 目標の一つだったので本当に嬉しいです! いつも読んでくださってありがとうございます!
まだまだ中盤なので、是非この先も楽しんでいただけたらと思います。伏線回収も待っていますので!
この物語には読み返さないと気づけないこともあるので、読み返してみてくださるともっと嬉しいです……!
では、続きもお楽しみに!













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。