〈飛side〉
日はとっくに沈み、街の空気は夏祭り特有の熱を帯びていた。
遠くから聞こえる祭囃子の音と、人々の浮ついた声が、僕の焦りを急き立てる。
手元には、道端で丁寧に摘んだ一輪のアサガオ。
バクの茶化しを無視して、僕は病院の階段を駆け上がる。
「ア」サガオ。
心臓が嫌な音を立てているのは、走ったせいだけじゃない。
この花を渡すことが、何かの引き金になるような……そんな、逃げ出したくなるような高揚感。
病室の前で一度立ち止まり、肺がちぎれるほど深く息を吸ってから、ドアノブに手をかけた。
〈あなたside〉
ドアが開いた瞬間、私は弾けるような声を上げていた。
飛くんは少し肩を上下させて、ぶっきらぼうに右手を差し出す。その先には、夜の帳を映したような、深い青色のアサガオがあった。
私はその花を大切に受け取り、サイドテーブルのメモ帳を広げた。
『ワスレナグサ、タンポポ、シモツケソウ、ハイビスカス……』
その隣に、新しく『アサガオ』と書き足す。
飛くんはなぜか、少しだけ視線を泳がせていた。
廊下を歩く飛くんの背中を追いかけて、私たちは屋上へと繋がる重い扉を開けた。
外に出た瞬間、病室の冷房とは違う、生暖かい「夏の終わりの匂い」が鼻をくすぐる。
飛くんが隣に並び、手すりに腕を置く。その横顔が、街の灯りに照らされて少しだけ大人びて見えた。
ハクが私の足元で
と期待に満ちた声を上げ、バクが
と笑い声を響かせる。
その直後、遠くの空で「シュルル……」と何かが駆け上がる音がした。
――ドンッ!!
夜空のキャンバスに、一輪の大きな光の花が咲いた。
次結構いい話(?)になる

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!