重い沈黙を破り、ようやっと思い出したように
絞り出された声に、思わず顔を上げる。それは当然、
喋ったことに驚いたからではなくて。
…同い年じゃん。
俺と変わらない年齢であったことに
衝撃を受け、思わず声が漏れた。だって、
目の前の少年は実年齢より2歳も3歳も若く、
というか、幼く見える。瘦せぎすである俺が
言えたことではないが、17歳って、もっとこう、
頬がふっくらしていて、溌剌としていて、
騒がしいものではないだろうか。
こんなに瘦せていて、いかにも不健康と
いった感じの容姿ではないはずだ。
まじまじと見つめていると、
彼は怯えたような表情で俺の胸元を見つめていた。
どこを見ればいいのかわからないのか、
俺の胸元に何かが付いているのか、…
…ま、たぶん前者だろ。
思わず謝罪すると、少年、…有岡くんは
首が取れるんじゃないかと思うほどに
大きく首を横に振った。
まぁ、否定の意を示すしかないよな。
自分でもこんな質問しか出てこないのが
情けない。だが、虐待されていた少年と
接するのは初めてなんだ。前々から
質問を準備していたわけでもないのだし、
多少は許してもらいたい。
有岡くんは少し考える素振りを見せた後、
軽く首を横に振った。たぶん聞きたいことは
山のようにあるんだろうけど、
まだ聞くのが怖いんだろうな。
何から聞けばいいかわからなかったのも
あるのかもしれない。
ひとまず、改めて自己紹介でもしてみるか、と
思い立ち口を開く。
と、そこまで言いかけて言葉が詰まった。
…虐待から逃れたばかりの彼に
この話をするのは少し酷かもしれない。
彼が言い淀んだ俺を見つめる視線は
不思議そうで、不安そうだった。
正面からはっきり目が合わないのは多分、
俺が殺したアイツに嫌というほど
恐怖心を植え付けられているから。
" 目が合ったから " という理由だけで
殴られ蹴られる恐怖は想像に難くない。
噓を吐くのが苦手な俺は、
噓にならない程度の噓を吐いた。
人殺しばっかやってるわけじゃないし…
ほら、あの、報告書とか、武器の修繕とか、
たま~に、本社?とかいうとこにも
行かされるし。…うん、殺人だけじゃない。
少し彼には情報量が多すぎたか
と思ってそう言ってみる。彼は
少し不思議そうに顔を上げた。
少し、動いたかどうかも怪しいほど、
ほんの少しだけ。
一瞬、リビングが静寂に包まれる。
心地のいい天使が通過しきったのを
見送って、俺はもう一度尋ねてみた。
有岡くんは黙ったまま、
冷え切ったマグカップを見つめ、
…そして少しの沈黙の後、
ゆっくりと首を横に振った。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!