彼…長谷が来た日の夜、俺は少年の
部屋の扉を叩いた。恐る恐る、と
いった様子で扉を開けた少年は、
怯えた目で俺を見上げた。
怖いことはしないからね、先に行ってるよ、と
言い残して扉から離れる。ずっと扉の前で
立っているとストレスだろうから。
何より怖いだろうしね。
ホットミルクを2杯準備していると、
少年が近づいてくる気配がした。
机の上にコップを並べ、皿の上に角砂糖と
クッキーを盛り付ける。少年と俺の間に
並べると、彼は空虚な目でコップを見つめていた。
彼の様子を窺いながら、コップに角砂糖を
一つ落とす。小さくぽちゃんと音が鳴り、
砂糖は姿を消した。
もう質問をすることは確定なのだが、
長らく人と話していなかった俺には
これ以外に話を切り出す方法が見つからない。
少し声が震えていること、
敬語を外さないことなどが気になったが、
とりあえずは目をつむることにする。
目を泳がせながら俯く彼は、恐怖からなのか
小さくなっていた。そんなに俯いて
首が痛くならないのかと心配になるが、
おそらく慣れてしまったのだろうと推測する。
小さくなって頭を下げた彼に思わず動揺する。
と同時に、あまりにも手慣れたその動作に、
彼が生きてきた環境の過酷さを思い知らされた気がした。
小さく " だいきくん " と呟くと、
彼の体が大げさに震えた。
ぎゅ、と目を閉じて己の手を握り締めて
可哀想なほど震えている少年は、
正直言って見ていられなかった。
だけど、ここで目を逸らしてしまえば
俺たちの距離はいつまで経っても
縮まらない気がして、俺は
小さく震える少年を見つめた。
" だいきくん " と呼びたいのが
本当のところだが、それに対する
恐怖心がすごそうなのでやめておいた。
ぼそりと呟いた彼は考え込むように俯いた。
そんなに支配されていたのか。
…年齢すらも、思い出せないほどに。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。