第88話

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2025/08/04 05:00 更新
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
とりあえず、まだ怪しいだろうから
自己紹介だけしておくよ
薮宏太。21歳。
殺し屋「HSJ」の司令塔で、
どの事務所にも属していない。
メンバーは宏太を含め5人。
佐藤英斗、猫屋ねこや蒼良そら桃谷ももたにゆう水川みずかわ爽太そうた
本名は会ったときに聞けと言われた。
どうして教えてくれないのかと聞いたら、
彼らにもプライバシーがあるから、
ということらしい。他に何か
理由があるのではないかと疑ったが、
彼の手を緩くでも握り返してしまった以上、
今更引き返すこともできやしなくて。
顔を顰めることしかできなかった。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
俺たちがやってるのも
髙木さんと同じ、
…いわゆる、殺し屋、ってやつ
依頼を受けた上で対象者の存在を抹消する者たち。
様々なリスクが伴うものの、
それを鑑みても報酬には目が眩む。

主には情報班、処理班、救護班、行動班に分けられ、
一般的にはそれぞれの部署に10~20人程が
配属されている。しかし、HSJでは人数の関係で
各部署に2,3人しか配属されず、その多くが
2つの部署を掛け持ちしているらしい。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…とまぁ、そんな感じだから、
どうしても人材が足りないんだよね
確かに、よく見ると彼の目の下には
隈がはっきりと浮かび上がっていて、
激務に追われていることが見て取れた。
昨日も夜遅くまで仕事をしていたのだろう。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
で、人材確保のために
俺を引き入れたい、と
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
それも理由の一つだね
彼はこめかみを押さえながら相槌を打つ。
頭痛が酷いのかもしれない。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
だったら、別に俺じゃなくたって
良かったんじゃないか?
俺よりも優秀な凶手きょうしゅは同じ事務所内だけでも
腐るほどいる。掃いて捨てるほどの
人間がいる中で、なぜこいつは俺を選んだのか。
彼の言う ” お前みたいなメンバー ” とやらも、
その気になればいくらでも見つかるだろう。

そのことを話すと、彼は困ったように目尻を下げた。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
HSJには強さと優しさを
兼ね備えた人にだけ来てほしいんだ
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
強さ、と、優しさ、
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
そう
「人材不足だから、そんな我儘を
 言ってる場合でもないんだけどねぇ」と
彼ははにかんだ。その顔がどことなく
パンダに似ている気がしたのは俺だけの秘密である。

ずっと正座だった彼がようやっと体制を崩した。
玄関で見た時にも思ったが、この人は足が長くて
背が高い。それに反して顔が小さいから、
余計に背が高く見える。
錯覚のようなものなのだろうか。
それにしたって高いような気はするが。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
虐待されてた子供、
引き取ったんでしょ?
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……あぁ
少年のためにも言わない方が
良かったのかもしれない。でも、
彼の前で噓をついても無駄だと思った。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
やっぱり大変?
世間話をするような、あくまで
他人事であるかのような言い方で問われる。
その姿が、大嫌いな母親と重なった。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
……髙木、?
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……はぁ…
虐待されていた少年を保護することは
大変なことばかりであると、いったい
誰がそのように決めたのだろうか。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…悪い、言い方がまずかったな
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
疲れてるように見えたから
手伝おうかと思ったんだけど…
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
…あいつは、大変なんかじゃない
寝室で耳を澄ませているであろう少年を
罵られたように感じて、思わず低い声が出てしまう。
…今から考えると、彼がそんなことを
言うはずがないのだが。

事実として、少年の世話は
大変なことばかりではなかった。
未だに怯えているからか全然近づいてこない、
というか、同じ家に住んでいるにもかかわらず
姿を見ることすら少ない。少年のために
用意した部屋に引きこもってばかりなので、
彼の世話というカテゴリーだと大変なことはなかった。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
あの子は、一生懸命なだけだ
生きようとして、なのか、死のうとして、なのか。
それは、俺には分からない。
本人は隠しているつもりなのだろうが、
手首に増え続ける傷も、見るたびに消える大量の錠剤も、
家主の俺が気付かないはずがなかった。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…有岡大貴
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……ッは、?
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
あの子の名前だよ、
知らなかったのか?
彼は訝しげに眉を顰めた。その視線はまるで、
" 一緒に暮らしておいて名前すら知らないのか " と
咎めているようで。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……本人から聞けばいいと思ったんだ
あの子を離す気はなかったし、これからも
ずっと一緒にいるものだと思っていたから、
無理に聞き出す必要はないと思ったのだ。
思わず、目の前の男から逃げるように
視線を逸らしてしまう。

…俺は、少年の何を知っていたのだろう。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…悪かったな、勝手なことして
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
…いや、……大丈夫、
悪かったのも、勝手だったのも、
身勝手だったのも、目の前にいる彼じゃない。
彼のまっすぐな瞳に映る、何もできない俺の方だ。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
……また来るよ
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
これ、俺の連絡先
要らなかったら捨ててくれ、と、
紙が一枚 机の上に置かれた。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
じゃあな、
扉が閉まる音が、やけに重く感じた。

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