薮宏太。21歳。
殺し屋「HSJ」の司令塔で、
どの事務所にも属していない。
メンバーは宏太を含め5人。
佐藤英斗、猫屋蒼良、桃谷優、水川爽太。
本名は会ったときに聞けと言われた。
どうして教えてくれないのかと聞いたら、
彼らにもプライバシーがあるから、
ということらしい。他に何か
理由があるのではないかと疑ったが、
彼の手を緩くでも握り返してしまった以上、
今更引き返すこともできやしなくて。
顔を顰めることしかできなかった。
依頼を受けた上で対象者の存在を抹消する者たち。
様々なリスクが伴うものの、
それを鑑みても報酬には目が眩む。
主には情報班、処理班、救護班、行動班に分けられ、
一般的にはそれぞれの部署に10~20人程が
配属されている。しかし、HSJでは人数の関係で
各部署に2,3人しか配属されず、その多くが
2つの部署を掛け持ちしているらしい。
確かに、よく見ると彼の目の下には
隈がはっきりと浮かび上がっていて、
激務に追われていることが見て取れた。
昨日も夜遅くまで仕事をしていたのだろう。
彼はこめかみを押さえながら相槌を打つ。
頭痛が酷いのかもしれない。
俺よりも優秀な凶手は同じ事務所内だけでも
腐るほどいる。掃いて捨てるほどの
人間がいる中で、なぜこいつは俺を選んだのか。
彼の言う ” お前みたいなメンバー ” とやらも、
その気になればいくらでも見つかるだろう。
そのことを話すと、彼は困ったように目尻を下げた。
「人材不足だから、そんな我儘を
言ってる場合でもないんだけどねぇ」と
彼ははにかんだ。その顔がどことなく
パンダに似ている気がしたのは俺だけの秘密である。
ずっと正座だった彼がようやっと体制を崩した。
玄関で見た時にも思ったが、この人は足が長くて
背が高い。それに反して顔が小さいから、
余計に背が高く見える。
錯覚のようなものなのだろうか。
それにしたって高いような気はするが。
少年のためにも言わない方が
良かったのかもしれない。でも、
彼の前で噓をついても無駄だと思った。
世間話をするような、あくまで
他人事であるかのような言い方で問われる。
その姿が、大嫌いな母親と重なった。
虐待されていた少年を保護することは
大変なことばかりであると、いったい
誰がそのように決めたのだろうか。
寝室で耳を澄ませているであろう少年を
罵られたように感じて、思わず低い声が出てしまう。
…今から考えると、彼がそんなことを
言うはずがないのだが。
事実として、少年の世話は
大変なことばかりではなかった。
未だに怯えているからか全然近づいてこない、
というか、同じ家に住んでいるにも拘らず
姿を見ることすら少ない。少年のために
用意した部屋に引きこもってばかりなので、
彼の世話というカテゴリーだと大変なことはなかった。
生きようとして、なのか、死のうとして、なのか。
それは、俺には分からない。
本人は隠しているつもりなのだろうが、
手首に増え続ける傷も、見るたびに消える大量の錠剤も、
家主の俺が気付かないはずがなかった。
彼は訝しげに眉を顰めた。その視線はまるで、
" 一緒に暮らしておいて名前すら知らないのか " と
咎めているようで。
あの子を離す気はなかったし、これからも
ずっと一緒にいるものだと思っていたから、
無理に聞き出す必要はないと思ったのだ。
思わず、目の前の男から逃げるように
視線を逸らしてしまう。
…俺は、少年の何を知っていたのだろう。
悪かったのも、勝手だったのも、
身勝手だったのも、目の前にいる彼じゃない。
彼のまっすぐな瞳に映る、何もできない俺の方だ。
要らなかったら捨ててくれ、と、
紙が一枚 机の上に置かれた。
扉が閉まる音が、やけに重く感じた。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!