第87話

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2025/07/07 05:00 更新
俺の家にその人が訪ねてきたのは、
ある晴れた日曜日のこと。

インターホンが聞こえた瞬間、いつも通り
すぐに寝室に隠れた彼を横目に
ドアスコープから外を覗く。服装からして、
警察官という感じはしなかった。なんというか、
オーラが違う。変に正義感にあふれていなくて、
一つ一つの仕草に無駄がなく、
気配の消し方をわきまえている振る舞い方。


ガチャリ、とドアを開けると、そこには
柔らかな笑みを浮かべた青年が立っていた。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……どちら様ですか
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
あ、初めまして、髙木くん
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
っ、!?
表札にも出していない俺の本名が、
顔すら見たことのない男の口から
吐き出されたことに強い恐怖を覚える。

なんなんだ、コイツは。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
そんなに警戒しなくたって大丈夫だよ
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
大声じゃ言えないけど、俺も
できるだけ本名は言いたくないんだよね
柔和な笑みを崩さないまま、彼は
俺を諭すように小さな声でそう言う。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……狙いは何だ
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…ん-、、狙い、ねぇ、…
彼は考え込むように腕を組む。口元には
柔らかな笑みが浮かんでいるが、
目つきは対照的に鋭く尖っている。
狩りをするオオカミのような、
容赦のない残酷な目。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
…金か
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
ほしくないわけじゃないけど、
生憎お金には困ってないんだよね
のらりくらりと問いをかわされ、
心の中に苛立ちが少しずつ積もっていく。
目的も、名前も、仕事も、家も、何者なのかも、
彼は俺を知っているのに俺は何も知らない。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
…じゃあ、何のために
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
…君さ、俺の事務所来ない?
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
………は、…?
こいつの、事務所、?
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
既に3人、メンバーは
集まってるんだけど
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
それでも、俺はお前みたいな
メンバーが欲しいんだ
先程までの柔和な笑みを視線だけに残した彼は
まじめな表情で俺を見詰てくる。
その真剣な面持ちは、
とても嘘をついているようには見えなかった。
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……名前は
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
薮宏太
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
偽名は長谷ながや みどり
髙木雄也(purple-sea)
髙木雄也(purple-sea)
……やぶ、…
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
宏太でいいよ
彼は再び柔和な笑みを浮かべ、
俺にその手を差し出した。
薮宏太(yellow-green)
薮宏太(yellow-green)
嫌なら、振り払って
もらって構わないよ
以前の俺なら、間違いなく振り払っていただろう。
少年を引き取る前の、強がっていた俺なら。
だって、まだ何も知らない、出会ったばかりの
怪しい奴の手を取るなんて、
今までよくしてくれていた事務所を
裏切るのと同じことだ。

だけど。


俺は、何も知らない奴の手を取った。
騙されているのかもしれない。
死んでしまうかもしれない。
それでも、この時の俺は彼の手を取った。
それが正解だと、直感でそう思ったからだ。

彼の手は優しく、暖かかった。

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