俺の家にその人が訪ねてきたのは、
ある晴れた日曜日のこと。
インターホンが聞こえた瞬間、いつも通り
すぐに寝室に隠れた彼を横目に
ドアスコープから外を覗く。服装からして、
警察官という感じはしなかった。なんというか、
オーラが違う。変に正義感にあふれていなくて、
一つ一つの仕草に無駄がなく、
気配の消し方をわきまえている振る舞い方。
ガチャリ、とドアを開けると、そこには
柔らかな笑みを浮かべた青年が立っていた。
表札にも出していない俺の本名が、
顔すら見たことのない男の口から
吐き出されたことに強い恐怖を覚える。
なんなんだ、コイツは。
柔和な笑みを崩さないまま、彼は
俺を諭すように小さな声でそう言う。
彼は考え込むように腕を組む。口元には
柔らかな笑みが浮かんでいるが、
目つきは対照的に鋭く尖っている。
狩りをするオオカミのような、
容赦のない残酷な目。
のらりくらりと問いをかわされ、
心の中に苛立ちが少しずつ積もっていく。
目的も、名前も、仕事も、家も、何者なのかも、
彼は俺を知っているのに俺は何も知らない。
こいつの、事務所、?
先程までの柔和な笑みを視線だけに残した彼は
まじめな表情で俺を見詰てくる。
その真剣な面持ちは、
とても嘘をついているようには見えなかった。
彼は再び柔和な笑みを浮かべ、
俺にその手を差し出した。
以前の俺なら、間違いなく振り払っていただろう。
少年を引き取る前の、強がっていた俺なら。
だって、まだ何も知らない、出会ったばかりの
怪しい奴の手を取るなんて、
今までよくしてくれていた事務所を
裏切るのと同じことだ。
だけど。
俺は、何も知らない奴の手を取った。
騙されているのかもしれない。
死んでしまうかもしれない。
それでも、この時の俺は彼の手を取った。
それが正解だと、直感でそう思ったからだ。
彼の手は優しく、暖かかった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!