口では大きいことを言って
彼を連れ帰ってきたはいいものの、
まぁ、こんな俺にまともに
面倒なんか見れるはずもなく。
少年は怯えまくって俺に近づいてくれないから
彼のことを少しも理解することができない。
名前も、年齢も、好きなものも、嫌いなものも、
トラウマが何なのかも、何が怖いのかも、
俺をどう思ってるかも、何を考えているのかも。
俺の姿を認めた瞬間に逃げ出す身体を捕まえて
問い詰めてみたいが、現実の俺には
彼の酷く小さい後姿を見届けて
小さくため息を吐くことしかできなかった。
まぁ、ため息なんか吐いていたって
少年が話しかけてくれるようにはならないわけで。
少しでも彼に近づこうと慣れない料理や
サボりっぱなしだった家事を進めるようになった。
とはいえ、少年の方がてきぱきと丁寧に
仕事を終わらせてくれていたので
俺がすることはほぼなかったが。
こんな調子だから暗殺業の方も
うまく進められるはずがなく、見かねた
ヤニカス上司が珍しく素面で休暇許可証と
休暇手当許可証に印を押してくれた。
いつもは印鑑欄から大幅にずれている赤い判子が
禁断症状のおかげで幾重にも重なっているのが
面白かったのを覚えている。
休暇中に鼻のいい警察が嗅ぎ付けてこないことを
祈りつつ彼との距離感を図ること数日、
あの酒カス上司から電話が来た。
いつもの通り部屋に引きこもって
出てこない少年を心配しつつ電話に出る。
彼は、少年の名前を教えるために電話したのだ、と
酒焼けした声で言った。
しばらく、沈黙が続いた。
想像していた答えと違ったのか、
ただ一服しているだけなのか、
それともその両方か。電話越しに、
サー…というホワイトノイズが聞こえてきていた。
たっぷりと沈黙を味わった後、
彼は息を吐くようにそう言った。
俺の考えを聞かずして感じ取ったのか、
それとも諦めたのか。無理に
考えを押し付けることのない
彼の優しさに心地よさを感じている
自分がいて、少し、いや心底驚いた。
と、まぁ口先ではこんな格好いいことを言っているが
つまるところはただの飲んだくれなわけで。
カラン、とグラスと氷がぶつかり合う涼しげな音、
それに続いてグラスが机に置かれる音。
息を吐く音からは煙草の香りがする気がした。
やっぱり、ただの飲んだくれだ。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。