ふと、背後から気配が近づいてきた。
そして、少年を見て面倒そうにため息をつく。
思わぬ発言に吐息のような疑問符が漏れる。
そんな目をしていた覚えはないが、
反論するとまた睨まれそうなのでやめておく。
仮面にかかる黒髪から覗く視線は、
俺を見ているのに交わらなくて、
あぁ、やはりこの人たちのことは
好きじゃないなと他人事のように思った。
そんな俺に気付いているのか否か
温度を感じさせない声が続ける。
…要するに、この人が言いたいのは。
この子供を引き取らないのなら、
少年を見殺したのは俺ということになる。
その罪悪感を背負いたくなければ
引き取れ、と、そういうことなんだろう。
そんな思考が脳内を巡るか巡らないか、
その狭間に、気づけば口から出た声が
静かな空気を震わせていた。
一瞬動きを止めた、ように見えた
目の前の人間は、俺の言葉に驚いたのか、
それとも何とも思わなかったのか。
彼は心底どうでも良さそうに、そうか、と呟き、
他の処理班の元へ歩いて行った。
よく考えれば、あの人だけは
よく俺に話しかけてくれる気がする。
もっとも、親しみのこもった声色でも
表情でもないのは確かなのだけれど。
音もなく歩いていく後姿を眺めながら、
ぼんやりと、俺は本当にこの子供を
引き取れるのだろうか、と思った。
口を突いて出た「預かります」の言葉に
何の責任もとらず、対価も払わずにいようと
思ったわけではない。が、子供の面倒を
見ることはおろか、ここ最近は子供を避けて
生きてきた。子供というのは鋭くて敏感で、
情けないことに、何となく俺は子供を恐れていた。
そんな俺が面倒を見る。
しかも虐待されていた子供の面倒を。
少年が顔をしかめて体を動かす。
寝返りの出来損ないみたいなその動き方に
今までの彼の生活が垣間見えたような、
そんな気がした。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!