【霊幻新隆side】
全力で走って俺の財布を取り返してきたあなたの名字さんを見た時。
すげぇ奴だなぁと思った。
からかったら「霊幻さん!」と照れてちょっと赤くなるあなたの名字さんを見た時。
可愛いなぁと思った。
近づいてみても俺に対して全然危機感をもたないあなたの名字さんを見た時。
守ってあげたいなぁと思った。
相談所でレポートやらを書いていたあなたの名字さんが顔を上げた。
疲れてたのか、思ったことがそのまま口から出てしまった。
彼女にちょっとでも近づきたい…と思ってしまう。
照れてうつむくあなたを見て、やっぱり可愛いなぁと思ってしまう。
一様いつも通り振る舞ってたつもりではあったけど、こいつ、変なところで勘が鋭いよなぁ…
最近、つめつめで依頼が入っていてろくに休めてなかった。
悪ノリで両手を大きく広げる。
あなたは、少し考えると…
と、駆けてった。伝わんねーの…
カタリと横にコーヒーが置かれた。
インスタントコーヒーなんて誰が入れても変わんないと思ってたけど、彼女がいれたコーヒーはいつものより美味しく感じる。
受け皿にコーヒーカップを置くと、
身動きが取れなくなった…というか、後ろから抱きしめられていた。
ふわっといい匂いが鼻をくすぐる。
なぜ俺は今、あなたに後ろから抱きしめられているんだ?そんな指示したか?
まずいな、これ…
俺がそう言うと、バッと離れた。
かぁぁっと音が出そうなくらい顔を真っ赤にする。
「出過ぎた真似をすみません…!」とペコペコ頭を下げるあなた。
俺は「いいって!そんな謝るなよ〜」と笑う。
と、大人ぶって笑ってみたものの…
正直ドッキドキだった。やばい、ニヤけそう。
まさか、冗談を真に受けられるとは思わなかった。
ガチャガチャと音をたてながら、騒がしく相談所を出ていくあなた。
俺は気を紛らわすために、立ち上がって窓の外を見る。
下に、モブくらいの学生の集団が歩いていくのが見えた。
霊幻新隆の場合 end
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!