私が手を握り返すと、博士は繋いだ手をさらにぎゅっと握り返してきた。
笑顔でそのまま博士はじっと見つめてくる。
透き通ったエメラルドグリーンの目に、色鮮やかな光が灯っている。まつ毛も長く、碧く非常に美しい。
私はその瞳に吸い寄せられるように、少しの間うっとりとしていた。
にやりと博士が笑う。私は顔が熱くなってさっと目を逸らし、手を離す。
思い当たる節は幾つもある。
博士はいぶかしげにこちらを見て、今度はニヒルに笑った。
そう言うと博士は時計の方に目を向け、時間を確認した。
時刻は午後4時05分だった。
隠れるところのない部屋をぐるぐると見渡す博士。私は「一方は建物から出てもう一方が着替え終わるのを待ったらいいのでは」と伝えた。
子供みたいだなぁ、と少し思いながらじゃんけんをする。博士が勝った。
愛嬌たっぷりの笑顔で片手を小さく振り博士は着替えに行った。
およそ15分後、博士はスーツを身にまとい出てきた。スーツは深い紺色で、ネクタイはさっきと違ってグリーンである。いつもと雰囲気が変わって、落ち着いていて大人っぽい。
スーツが癖の私は思わず見惚れて口角が緩み、目を輝かせてしまった。急いで手で口を覆い、表情を隠す。
博士は自慢げにその姿を見せてきた。私は、凄く格好良い!と伝えるのは若干癪だし、なにせ恥ずかしいので、
とだけ口にして、あたかもときめいていない風を装い伝え、ふいと別の方向を見た。すると博士は私の言葉を聞いてまたにこにこしながら私の元に近づいて、顔を覗き込んできた。
私は建物に入って、着替えるワンピースをスーツケースから取り出した。爽やかな水色の袖がふんわりしたパフスリーブのワンピース。
とても可愛くて、お店のショーウィンドウで一目惚れして少ない貯金を崩して買った大切な一着である。
お気に入りのワンピースを身にまとい、揺れる小さな白いパールの素敵なイヤリングをつけて、髪をゆるくまとめてセットした。
バッグを待って、メイクを直し、完璧に仕上げた。
私は確信してドヤ顔でスニーカーをパンプスに履き替え建物を出た。
博士は私を見るや否や目を丸くして、口を開けて、驚いたように固まってしまった。そして、先ほどまでと雰囲気の違う、少し落ち着いた声色で、
と横を向いて片手で口元を軽く覆いながら言った。ほんのり耳と頬が赤いような…まるで照れているようだった。
私は予想外の言葉をかけられて、時間差で若干戸惑ってしまったが、褒めてくれたことを素直に嬉しいと思い、笑顔で感謝を伝えた。
そんな私を見て博士は優しく微笑みながら
通りまで歩いて、しばらくした時だった。私が夕日の綺麗な景色を見ながらあんまり喋らずにいると、
博士は前を歩いていたが、ふいに私の隣にやってきて、並んで歩き出した。はたから見たらもうカップルのようである…。
かなり恥ずかしい…。
そう言うと博士は急にぎゅっと手を掴んできた!私は驚いて、心臓が早く鼓動しだす。
顔まで赤くなってくる。急いでそっぽを向いて誤魔化そうとしたが、無駄だった。
にやにやした博士が尋ねかけてくる。
私はまるで気持ちを翻弄されたように感じ、やや苛立って聞いてしまった。
仕返しのつもりで、冗談でそう言うと、博士は困り眉をして、あたふたと手を動かし焦りながら
思わぬ本音が聞けて、何だかんだ可愛らしい人だよな、とか反応が面白いのはお互い様だな、とか思いつつ私は博士に言葉を返す。
そう私が軽く注意すると、博士はしゅんとして、
と少しいじけて弱々しい返事をした。
そうこうしているうちに私たちは大通りに到着した。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!