またか、と思いつつ、回答を待っている遊のために一応考えてみる。
この前が初会話記念日だったから、一年前の今日はまだそんなに進展してないはずだよね。
まじで全部憶えてるんだな。そこまで憶えてられるって普通にすごい。
もう少し考えてみようとしたが、遊が痺れを切らす方が早かった。
元気いっぱいに発表した遊。
そして、その出来事を憶えていない私。
少しどきりとするが、憶えていないのだからしょうがない。
ただの相槌だけになったのは、思ったより遊の記憶が詳細でびっくりしたのもある。
ふと、遊が何かに気付いたように視線を落とした。
しゃがんで再び立った後に持っていたのは私が使っているのと同じ種類の消しゴムだった。
机の隅に置いている筆箱の中を一度確認する。
受け取りながら言うと、遊が嬉しそうに笑った。
すこぶる上機嫌な遊に、私はよかったね、とだけ言う。
呆れて頬を緩めながら。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!