会場のざわめきは 、
完全には戻らなかった 。
取り押さえられた男はすでに連れ出され 、
音楽は再開されたけれど 、さっきまでの
華やかさはどこかぎこちない 。
私はまだ少し震えていた 。
彼が隣に立ってくれているだけで 、
かろうじて息が整う 。
父の声 。
振り向くと 、
さっきよりもずっと冷静な顔をしていた 。
怒りではない 。計算している顔 。
けれど 、足が動かない 。
彼が一歩前に出る 。
さっきの “ 守る ” 動きとは違う 。
今度は 、対等に向き合う立ち方 。
丁寧な言葉遣い 。
でも引かない
父の目が細くなる 。
空気がまた冷える 。
私は思わず彼の袖を掴んだ 。
ちらりと私を見て 、
ほんの少しだけ微笑む 。
──── 大丈夫 、と言うみたいに 。
落ち着いた声 。
一瞬 、父の瞳が鋭く光った 。
ざわり 、と背筋が冷える 。
父は数秒黙り込む 。
周囲の客たちは距離を取り 、
誰も近づかない 。
スチの視線が 、
先程 暗殺者がいた方向へ向く 。
低い 、静かな分析 。
さっきまで優しい王子様だったのに 、
今は完全に “ 裏の世界の後継者 ” 。
その横顔に 、また胸がどきりとする 。
父はしばらくスチを見つめ 言った 。
その一言で 、空気が止まる 。
守るべきもの 。
それって ────
頬が熱くなる 。
父の視線が 、ゆっくり私に移る 。
そして 、また彼へ 。
即答 。迷いがない 。
強い声ではないのに 、重みがある 。
父は長く息を吐いた 。
それは 、事実上の協力請 。
完全な和解ではない 。
でも敵対でもない 。
スチはわずかに頭を下げる 。
大人同士のやりとり 。
私はただ 、
その間に立っているだけなのに ────
なぜか 、置いていかれた気がしなかった 。
父は最後に私を見る 。
今度は逆らわなかった 。
歩き出そうとしたとき 、
スチの指先がそっと私の手に触れる 。
一瞬だけ 。
胸が 、きゅっとなる 。
騒動のあとだというのに 、
その言葉はまるで約束みたいで 。
私は小さくうなずいた 。
振り返ると 、
彼はもう “ 後継者の顔 ” に戻っていた 。
部下らしき人物と低く何かを話している 。
優しい王子様と 、冷静な裏の顔 。
その両方を知ってしまった 。
今夜の舞踏会は 、ただの出会いじゃない 。
家同士の関係も 、裏で動く何かも 、
きっとこれから絡み合っていく 。
でも 。
胸の奥で 、確かなものがひとつある 。
──── 私は 、あの人を信じたい 。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。