スチ の手が 、静かに差し出された 。
さっきまで穏やかに笑っていたのに 、
今は少しだけ真剣な目をしている 。
周囲のざわめきが 、
こちらへ寄ってくるのが分かった 。
名家同士 。
しかも決して近いとは言えない関係 。
この手を取れば 、注目される 。
─── 分かっているのに 。
低くてやさしい声 。
私は思わず視線を落とした 。
彼の手は綺麗で 、指先まで迷いがない 。
小さく言うと 、スチは困ったように微笑んだ 。
まるで 他人事の様に 穏やかで 。
その言い方がずるい 。
強引じゃない 。
選ばせてくれる 。
なのに 、
彼の瞳の奥には確かな意志がある 。
そう言うと 、
彼の目がほんの少し柔らかくなった 。
その一言だけで 、胸が熱くなる 。
私はそっと彼の手に自分の手を重ねた 。
周囲がざわめいた 。
はっきりと空気が変わる 。
でも 、彼は動じない 。
中央へ歩き出す背中が 、頼もしく見えた 。
✧
音楽がゆるやかなワルツに変わる 。
彼の手が私の腰に添えられた瞬間 、
息が止まりそうになる 。
近い 。
さっきよりもずっと近い 。
その言い方が 、少し大人だった 。
優しい王子様みたいなのに 、
ちゃんと “ 家を背負っている人 ” の声 。
一歩 、踏み出す 。
私の足が迷わないように 、
ほんの少しだけ先導してくれる 。
強くないのに 、絶対にぶれない 。
くるり 、と身体が回る 。
ドレスがふわりと広がり 、光が揺れる 。
戻った瞬間 、
彼の腕がしっかりと支えてくれていた 。
そう言うと 彼は小さく笑う 。
その言葉に 、胸が跳ねた 。
周囲の視線が痛いほど集まっているのに 、
今は彼しか見えない 。
ステップが自然と合っていく 。
呼吸も 、タイミングも 。
初めて踊るはずなのに 、
どこか懐かしい 。
彼の瞳が、真っ直ぐ私を見つめる 。
その一言で 、
不安がすっと溶けていった 。
音楽が高まり 、最後のターン 。
彼の腕に支えられて止まったとき 、
胸の鼓動がうるさいくらい響いている 。
スチ は優しく微笑んだまま 。
けれど 、その目はどこか大人で 。
私はきっと 、
今この瞬間から ───
〝 彼を特別だと 思い始めていた 。 〟












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。