~らんside~
……は?
まずい、理解不能なことの連続で声が出そうになる。
下唇を噛んで話すことを我慢する俺を見て、怪盗は少し不満そうな顔をした。
何か言ってたような気がしたが、今は無視しよう。
…どういうことだ?狙いは、ティアラではないのか?
ティアラの他にもペンダントやイヤリングなど、金になる宝石は他にも大量になる。
それなのに、金になるはずのない俺を攫う?
頭が「?」だらけで、どうにかなりそうだ。
…覚えてないみたいだし、と彼は続ける。
どういうことだ?
とにかく、俺の身が危ない。
さっきは金にもならない…とは言ったが、俺の唯一の良点はこの容姿。
攫われたらオークションで売られてしまう…ということさえもありえる。
はやく、ここから逃げなくては…!
そう考え、ドアへ向かおうとした瞬間、また人影が瞳に映った。
ニヤニヤとした笑みを浮かべ、ドアで立つ赤い瞳の人。
いつのまにか部屋に入ってきたのか…それとももっと前に既にいたのか。
服装が紫の人と似ている…ということはこの人も怪盗。
…まずい、出口をふさがれた。
そうなれば、執事を呼び出すベルをー…!
そう思いつき、すぐにベルへと振り向くが、もう遅かった。
ベルの付近には、また別の水色の瞳をした人が立っていた。
身長は俺と同じ…いや、俺より小さいくらいか。
にこにことしながら俺の部屋を見渡している。
…だんだんと焦ってきた。
だって、ドアには赤い人、窓には紫の人、ベルには水色の人がすでに立っている。
運動神経皆無な俺に、一瞬で移動できる素早い彼らを突破することは難しいであろう。
手汗が滲んでくる。
もう余裕は少なくなっていて、俺の瞳はもう右往左往しているであろう。
どうにか震えを悟られないようにするだけでもう精一杯だ。
そんな俺の様子に気付いたのか、いつの間にか部屋に入っていた紫の人が、少し気遣わしげに聞いてきた。
思わず声を出してしまい、慌てて口を抑えようとした。。
しかし、俺が口を塞ぐ前に腕を掴まれる。
ハメられた。
しかし、城の者以外はこのルールを知らないはずなのだが…
怪盗だから調べているのか?
他人にとってはどうでもいいことだとは思うのだが。
…苦しいだろ、と苦しげな声で言う彼。
そんなことが叶うのか、と思わず顔をあげた。
…彼の言うことは、要約すると……
即答で、俺の叶わないと諦めていた答えを当然のように言う彼。
その真っすぐな言葉に、俺の心は揺らいでしまった。
それに、ここで一生閉じこもるより、ここで挑戦して躓いたほうが俺は後悔なんてしない。
そんな、絶対的な自信が俺にはあった。
すると、彼は俺よりも嬉しそうな、優しい顔で笑った。
…不覚にもドキリとしたのは、無視することにしよう。
そうして、俺は彼に支えられながら、初めて窓の外へと飛び出した。