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僕が一番はじめに部室から駆け出したのは、
きっと僕が消えちゃいそうだったのもあると思う。
許せない。
なんで、
満たされているのに。
僕に無いものを、持っているのに。
僕を、否定しないでくれよ
上履きのかかとを踏みつけて、
少しだけ泣きたいような気持ちで廊下を走る。
僕の後ろに世界が流れていく。
変な気分。
僕の為、美八先輩の為、
ゲーム部のみんなの為、僕は走った。
何処にいるかもわからない美八先輩からは
走るほど、どんどん遠ざかっている気がした。
こんなのただの僕の自己満足で、エゴだ。
僕が美八先輩を探し出すことに価値なんてない。
なんて言い続けてる僕の頭とは反対に、
僕の体は美八先輩を探すことに精一杯だった。
ぐちゃぐちゃに校内を駆け回った。
2年生の教室なんかは4回以上は行った。
何処にもいなかった。
もしかすると、校内にもいないのかもしれない。
美八先輩の家なんて知らない。
学校にいないなら、僕にはどうしようもない。
その時、スマホが揺れた。
それはゲーム部グループLIMEの通知だった。
「体育館にはいない」「2-2にもいない」
「プールにもいない」「校門近くにもいない」
「保健室にもいない」「トイレにもいない」
「部室にもいない」「グラウンドにもいない」
「廊下は全部通ったけどいなかった」
「先生も生徒も見てないって言われた」
この世にも、もういない
そんな言葉も浮かんだけど、必死で首を振った。
たかが伊江先輩とあんなことがあっただけで、
あんなに蜈?ョしてる先輩が…………
……………そんなの、ありえない。
「学校にはいないかもですね」
「もうちょっと探しても見つけられなかったら、
手分けして外も探しましょう」
「わかりました」
………行ってみなきゃわかんないよな
何回も通った廊下を引き返して、また走った。
スマホの通知は収まり、もう震えていない。
落とさないようにスマホは片手に握りしめた。
もう、止まれない。あとは僕にも
どうなるか分からないし、どうなってもいい。
僕に出来ることは、想̵͓̤̗̠̃̏̽̆́̐̈́ͅい̷͇̮͖̳͔̞̥͉̜̳̈́͗̋̈́̔͛͑͊͑̇͋̚を̶̭͚̟̭̜͍̘͓̪̱͇̃̃̒̑͆́̽̀̎ぶ҈̣͚͍̣͕͕̇̋͛̽͌̎̄͛つ̶̱̗̘̬̳̞͖̦̟̜͖̇͆̈́̒̍́̽け҈͎̥̟̙̓̍̇̓͌̄̿́̄̊͂̈る҉̲̲͓̦̝̰̖̆̓̊͆́こ̵͈̜͍͙̗̖̖͇̪̪̄́̓̒̇̉̒̍͒̄̊̚と̶͔̜̬̲̽̔͌̋̀̉だ̵̫̪͉̠̳͈̬̖̭̉͊̊̅̎̇̐け҈̠͍͎̯͌̉̀͗̀͐̄。҉̙̞̳͚̝̞̖̯̞͖͛́̾̄͛͑͂̚ͅͅ
廊下ですれ違う生徒達は少なくなっていた。
だって、もう部活は終わる時間。
片付けとかがある部活以外は帰り始める頃だ。
こんなの、不良みたい
クスッと自分でちょっと笑ってしまう。
トン、トン、
他の場所とは少し材質の違う階段を
リズムよく上がっていく。あの場所を目指して。
扉にどんどん近づく。
─…そして扉のすぐ前に立つ。
もう階段は登り切ったのだから、
当たり前だが僕が階段を登る音はしない。
厳かで、ぴんと張り詰めた空気が漂っている。
─ガチャ、
思い切ってドアノブをひねると、
開けた扉から外の風がぶわっと入り込む。
髪のピンが飛ばされないよう押さえて、
僕は目的の「屋上」へ一歩を踏みつけていった。
ビュウウゥ!!!
風の音が強くて、ところどころ聞こえなかった。
でも、屋上には誰かいるのだ。
もちろんこの声の主が美八先輩とは限らないけど。
………………………………………………………………。
間に合ったのか、間に合わなかったのか。
結論だけ言うと美八先輩は屋上にいた。
こちらに驚いているような顔を一瞬だけ見せ、
すぐに真顔…無表情な顔に変わった。
僕は扉を開けた姿勢のまま、固まっていた。
屋上には、転落防止のためにフェンスがある。
フェンスは僕の肩あたりの高さ。
美八先輩は、フェンスの向こう側にいたのだ。
…僕は、どうしようと来たんだってんだ?
……………少なくとも、何も言わず帰るのは違うだろ。
美八先輩に言うんだよ。救うんだよ。
美八先輩の、ヒーローになれるチャンスなんだ。
心臓に言い聞かせるように脳で考え続け、
ようやく扉を開けた時のままの姿勢から動き出す。
美八先輩は虚ろな目をしている。
露崎美八が今、飛ぼうとしているのは、
伊江先輩とのことも少しは関係しているはずだ。
首を傾げて、美八先輩はこちらを見つめてくる。
覚えていないのだろうか。
……いや、絶対に覚えているはずだ。
伊江先輩とのことはあまり関係していないのかな?
……でも、あのときの美八先輩はおかしかった。
美八先輩は、きっと何か抱えているんだ。
僕が救ってあげなきゃ。
僕が救いの手を伸ばしてあげなきゃ。
美八先輩に言葉を発すれば発するほど、
僕の感情も高ぶっていく。
屋上の扉を開ける前には感じていなかった
赤黒い先輩への怒りや期待が込み上げてくる。
それは噴水のように僕の心臓から溢れ出し、
僕をそれで満たしていく。
それに満たされれば、心地よさを感じる。
嗚呼、これが僕なんだ。やっと僕になれたんだ。
僕の言葉が、勝手に口からこぼれ出る。
本当に僕はこんなこと思っているのだろうか。
これは、僕の言いたいことなのか。
………そんなこと、今はどうでもいいんだ。
美八先輩をいまはすくわなくちゃ…っ!!!!!
真っ直ぐ前を見つめ、美八先輩に伝える。
これがこの人の為になるか、ということには目をつぶる。
ほら、僕が救ってあげる。
美八先輩の目から涙が溢れ始める。
ちょっと悪いことをしてる気分になるけど、
これが美八先輩の為になることを願って見つめ続ける。
願ってなんかいないかもしれない。
だってこれは僕の言葉なんだ。
願わなくたってこれは美八先輩の為になるんだ。
……何、上から目線で人に物言ってんだ。
そんな言葉が、美八先輩にあげる言葉だったのか?
美八先輩はただ救いを乞う子供じゃないだろう。
決めつけてるだけじゃないか。
フィクションのかっこいい言葉を
美八先輩に投げつけて…それこそ自己満足だろ。
僕は、
そんなキラキラした言葉で友達を救えるような
アニメとか漫画の「主人公」にはなれない。
僕が発する言葉は、キラキラ輝いてなんかいない。
むしろ、汚いし真っ黒だし…
救いの手になんかならない、なれない。
分かってたはずだろ。
それなのに主人公になろうとする自分が嫌いだ。
…………………でも、
主人公になれないからって
何にもなろうとしない自分は…もっと大嫌いだ。
美八先輩も人間だ。
そして、僕もただの一般人、人間だ。
僕を満たしていたそれに、
今になると恐ろしい程不快感を覚える。
美八先輩の目からは、
涙がぽろぽろと溢れて止まらない。
ダサかったよな、僕…
新たな黒歴史になるかも…うぅ…
………………まぁ、今はそんなこと考えないでいよう。
僕は美八先輩を救えたのか、救えなかったのか。
そんな難しいこと、僕にはわからないけど。
─パリン、
ふと、僕の耳に何かが割れたような音が届く。
元の美八先輩には戻らない。
だけど、人間はみんなそうなんだろう。
産まれた最初のままで死ぬ人なんていないんだ。
みんな、どこかでぐにゃりと曲がるんだ。
美八先輩は、それがたまたまこの時だっただけ。
曲がりなりにも元に戻ろうとして、
結局、綺麗な真っ直ぐにはなれないけど。
そんな不完全なものが人間なんだろう。
美八先輩は涙を拭う。
挿絵:てく-teku-
マジでありがとう…
初描きとは思えないクオリティありがとう…(号泣)
mmmr新メンバーについて!
活動報告の方でも言ってますが、
私は正直、小説には出そうと思ってないです。
理由は活動報告で言ってるので言いません。
アンケートは取らせて貰いますが、
少なくとも「未完成のパズル」には出てきません。
アンケート
mmmr新メンバーは小説に出す?
出す
47%
出さない
14%
ちょっとだけ出す
14%
どっちでも良い
25%
投票数: 51票
そして投稿めちゃくちゃ遅くなりました…
本当にすいませんでした(土下座)
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。