ライくんの明るい声と、コーヒーの香りが漂う穏やかな時間が流れていた。こうして他愛のない話をしていると、心がふっと軽くなるのを感じる。
その時、バッグの中でスマホが鋭い音を立てて震えた。
表示されたのは、おばあちゃんが入所している施設からの通知。私は少し不思議に思いながらも、通話ボタンを押した。
電話口から聞こえてきたのは、施設職員の声だった。
おばあちゃんが、急変して緊急搬送された――。
状況を把握するより先に、背筋が凍りつくような感覚が全身を駆け巡る。スマホを握る指先がガタガタと震え、視界がぐらりと歪む。
その場に力なく座り込んだ私を見て、ライくんがすぐに異変を察して隣へ駆け寄ってきた。
混乱と恐怖で涙が溢れ出し、呼吸が浅くなる。
そんな私を、ライくんは力強く抱き寄せた。
ライくんの声は、驚くほど冷静だった。
パニックで視野が狭まっていた私の心が、彼の腕の中で少しずつ息を吹き返す。
彼は離れて暮らす親戚。
理屈ではそう分かっているのに、彼の温もりに触れると、幼い頃からずっと欲しかった、言いようのない安心感に包まれる。
彼はいつだって、突然現れては、真っ直ぐに手を差し伸べて私の心を救ってくれるのだ。
病院への道中も、到着してからの張り詰めた空気の中でも、ライくんは常に私の隣で、震える手を握っていてくれた。
付き添ってくれた施設の職員から、事の顛末を聞く。
昼食の準備のために部屋へ入ると、おばあちゃんは顔の半分が歪み、呂律も回っていなかったという。
医師からの淡々とした告白。
しばらくは入院が必要だという宣告は、あまりにも唐突で、残酷だった。
ICUの前に立ち、ガラス越しに管に繋がれたおばあちゃんの姿を見た瞬間、私はその場にへたり込んだ。
どうしていいか分からない。学校のこと、佐伯くんのこと……そんなものは全て、この絶望感の前では砂のように消えてしまった。
気がつくと、ライくんが私の背中をゆっくりとさすり、震える体を優しく抱きしめてくれていた。
この人がいてくれなかったら、私は今頃どうなっていただろう。
彼の穏やかな声が、荒れ狂う私の心にそっと染み込んでいく。
私は、この大きな不安を一人で抱える勇気なんてなかった。だからこそ、今こうして目の前で温かい体温を伝えてくれるライくんが、今の私にとって唯一の、そして絶対的な心の拠り所になっていた。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!