でも。
殺す気には、なれない。
オレは、呼吸をずらす。
わざと隙を見せる。
誘う。
ダイアが踏み込む、その刹那。
アンテナを打ち込む。
命中。
一瞬だけ、動きが止まる。
完全支配は無理だ。
強い。
でも、揺らぎは生まれる。
その隙を逃さない。
蹴りを叩き込む。
壁に叩きつけられる音。
舞い上がる砂。
夜が、また静かになる。
ダイアが、膝をつく。
血が、ひとしずく、闇に落ちる。
オレは、ゆっくり近づく。
携帯を構えれば、終わる。
終わらせられる。
ダイアが、顔を上げる。
恐怖はない。
ただ、揺れない忠誠。
静かな声。
息は荒いのに、芯はぶれない。
知ってる。
ずっと知ってた。
オレは、小さく笑う。
ダイアは、続ける。
まっすぐ。
残酷なくらい。
胸の奥が、ちくりと痛む。
図星だから、笑うしかない。
オレは、携帯を下ろす。
ダイアの目が、ほんのわずかに動く。
少し考えるふりをする。
そして、正直に言う。
夜に落ちる、本音。
ダイアは、黙る。
オレはしゃがみ、視線を合わせる。
近い距離。
敵同士なのに、どこか似ている。
静かに告げる。
ダイアの瞳が、ほんの少しだけ揺れる。
怒りじゃない。
理解。
静かな反論。
強いなぁ、本当に。
オレは、立ち上がる。
道を空ける。
軽く言う。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!