僕がこの街に来て、3日が経った。
ポロ、ポロロン……
今日も僕は彼女のピアノを
聞きに広場へ来ていた。
どこか儚げな音色と少しばかりの歓声が、
夜の広場を淡く優しく染め上げる
この場所を舞台に小説を書こうと
思う程、僕はこの場所を気に入っていた。
……やがて、演奏が終わり。
拍手と共に彼女が礼をして、この時間が
終わる…
石畳の溝で躓いたのか、少女は
長いスカートを靡かせながら前に倒れた。
僕は反射的に彼女の元へ駆け寄り、
手を差し出す。
ビクッと肩を震わせた彼女は、
僕の手を見てふるふると首を振る。
言葉を続けようとしたが、彼女の
瞳はどこか怯えた色をしていて、
思わず口を噤む。
その内にスっと立ち上がると、少女は
走り去って行ってしまった。
アランさんは笑って僕の頭を
豪快に撫でる。
僕は派手になった頭に手をやり、アランさんの
からかいぶりにため息をつきながらも、
内心では先程の少女のことについて考えていた。
僕の見間違いでなければ、彼女の
空虚な瞳の中には微かに恐怖の色が
浮かんでいた。
彼女は……何かを抱えているのだろうか。
もし、確かめる術があったとして、
それが本当だとしたら。
僕に……何か出来ることは無いだろうか。
出会ったばかりの筈なのに、僕は彼女に
過ぎた関心を抱いていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。