名前を呼んだ , もう一度
体温も重みも感じなくなった
行き場をなくした手を
眺めながら何度もその名を呼ぶ
主人を無くした服から
わずかに彼女の匂いがして
無意識のその匂いを辿ってしまう
そう言って自分自身の触手で
自らの左腕を抉った
衝動を抑えるために
必死の思いで自分自身を
傷つけ , 自我を保つ
脳裏に浮かぶ彼女の笑顔が
少し諦めたように微笑んでいるのは
気のせいだろうか
もうずっと心の底から
笑った彼女の笑みを見ていないような気がする
上手くその顔が思い出せない
記憶の中に映るあなたの下の名前(カタカナ)は
無理をしている表情ばかりだった
そう言って彼女の服を
離さないまま立ち上がった時
何か重い感触があるのを感じ取った
恐る恐る確認すると
それは少し錆び付いた
ロケットペンダントだった
ホシルベがこのロケットペンダントを
忘れるはずがない
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いつもあまり感情を
出さない彼女の声色が
明るくなったのが分かる
割れ物を扱うような
丁寧な手付きでペンダントを眺めていた
心配そうに彼女の
様子を伺う国を代表するヒーロー
それがおかしかったのか
あなたの下の名前(カタカナ)は肩をくすめた
そう言ってこれでもかと言うくらいに
万遍の笑みを見せつけてきた
どんな花よりも綺麗で
美しい忘れることのない笑顔だった
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思い出と共に彼女の幸せそうな顔が
徐々に浮かんできた
思わずロケットペンダントを握る手に力が籠る
向き合うのが怖かったから
優先順位を狂わせたから
傍にいるべき相手を間違えたから
全てがもう過去の話で
何も変わることのない残酷な事実だ
それでも彼は語り続ける
今までの空白の時間を埋めるように
自分の後悔する気持ちを紛らわせるように
自我を保つために , 現実から目を逸らすように
彼女の物語を終わらせないように
これが正解かだなんて誰にも分からない
ただ1つ , 聖女 あなたの下の名前(カタカナ)・エルムは死んだ
その結末を誰かが変えることは出来ない
END______________ ¿













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!