前の話
一覧へ
魔王を討伐して数日が経った今日も、街中が、いや、世界中が、宴を楽しんでいた。
あなたの一人称(俺、私など)は、宿屋の一室で風に吹かれながら宴に踊る街を眺めていた。
頭によぎるのは、腕の中で死んでいった父のこと。
アリアハンの家であなたの一人称(俺、私など)の帰りを待ち望んでいるであろう、母のこと。
そして、大魔王ゾーマが死に際に言った言葉。
『光あるかぎり 闇もまたある………』
『ふたたび何者かが 闇から現れよう………。すでに その兆しは 生まれている………』
あなたの一人称(俺、私など)はこれから、どうすればいいのだろう。
旅の果てにやっと出会えた家族を亡くし、唯一の家族が待っている家に帰る術はない。
新たな闇を退けようにも、それが何なのか、どこにあるのかもわからない。
あなたの一人称(俺、私など)に残っているものは、言いようがないほどの喪失感。
世界は平和になってしまった。
あなたの一人称(俺、私など)だけを残して。
自然と溢れでた笑みは乾いていた。
諦めの笑みだった。
たとえばもし。
家に帰ることができたとしても。
母に合わせる顔は、あなたの一人称(俺、私など)にはないではないか。
死んだはずの父と出会えたのに、あと一歩のところで助けられなかったのだから。
たった一人の人間すら守れなかったあなたの一人称(俺、私など)に、ロトと名乗る資格も、家に帰る資格もない。
そう思うと胸が少しだけすくようなきがした。
同時に、あなたの一人称(俺、私など)の心の中で決心がついた。
纏っていた防具を外し、持っていた武器や道具の整理をする。
全ての物を整理し終わった時、ある物が目に入った。
父親であるオルトガの兜。
最後まであなたの一人称(俺、私など)を守ってくれた、唯一の形見。
あなたの一人称(俺、私など)は兜に手を伸ばし、そっと胸に抱いた。
父の旅路とあなたの一人称(俺、私など)の旅路が詰まった兜は、少しだけ温かいような気がした。
宿屋を後にしたあなたの一人称(俺、私など)は、最後にとある人物の元へと歩いていた。
すると、
突然、後ろから声をかけられた。
声の主は、ラダトーム城の地下の老人だった。
あなたの一人称(俺、私など)はたいようの石を老人に手渡した。
老人は不思議そうに尋ねた。
そう伝えると、老人は何かを悟ったように軽い服を着ているあなたの一人称(俺、私など)を見た。
全てを理解したような老人の目に、少し困ってしまった。
世界は平和になってしまったから。
あなたの一人称(俺、私など)だけを残して。
老人は、やはり全てを理解したように頷いた。
その言葉を最後に、あなたの一人称(俺、私など)は宴の音楽が鳴り響く街に背を向けて再び歩き出した。
心地良い風が、役目を終えた背中を押すように吹いていた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。