『…所で』
ソーサーがカチャンと小さい音を奏でる。
私は自由になった両手を組み、其の上に頭を置いた。
悪女サロメに因って首を落とされた預言者ヨハネと已己巳己では無いか、と遺憾に思い乍ら閑話休題。
『如何して君はそんなにもDreamを唾棄するんだい?自身の兄弟だったかも知れないと言う可能性だって有る筈だ。』
「何が言いたい。」
微量の殺意を含有した其の怒張も私の前では小鳥の囀り同然。
否、彼が恋に落ちる等在り得る筈も無いのだから正確には地鳴きと言った所か。
「……」
彼の眉間に皺が寄る。思考が読めないなりに勘は働く様で。
『私と楽しく漫談為る気は無い
と言った所存かな。』
「Shit お前の方がよっぽど化物じゃ無ェか。」
概ね彼が言っているのはNightmereの様に洗脳が無いにも関わらず私が読みを中る事に対しての悪態であろう。失礼な、言うなれば化猫だろうに。
『残念。じゃあ私の一人劇場だ』
媚びるやうに鳴いた。
魑魅魍魎の類に喩えられた事も忘れる位、甘いマスクで相手を貶める。然しその裏には隠し切れない邪心が覗いてゐた。
『君がDreamを厭忌し疎み、煙たく思うのは怪訝しな事では無い。当然の事で在ろう?
根本的に合わない、価値観が違う。其の偽善に反吐が出る、疾く消えて欲しい。
其れで好いんだ。それでいい。幾ら相手を殺したい程憎んでも、死ぬ訳じゃない。だから良いんだ。私にとってはね。でもね、mere 殺生は、賊害は、殺人は
人類最初の殺人は、兄弟間で起こった事なのだよ。
エデンの園を追い出されたアダムとエバ。
其の後此の夫婦にはカインとアベルという二人の息子が生まれる。カインは農業を営む者になり、アベルは羊飼いになった。
在る時二人は、其々神に捧げ物を為るが、カインが持っていった畑の作物という捧げ物は神に受け入れられず、アベルが持っていった羊の初子は受け入れられた。
逆恨みをしているカインに向かって神は「良いことをしていないのであれば、戸口で罪が待ち伏せている。罪はあなたを恋い慕うが、あなたはそれを治めなければならない」と警告した。
此の時点であれば、カインは逆恨みを辞め自分の捧げ物について反省をするチャンスが有ったのだが、彼は然う為る事が出来ず、其の不当な怒りの矛先をアベルに向けた。カインはアベルを野に誘い出し、殺してしまったのだ。
『だからね、mere. 君たち二人は何処まで行っても兄弟何だ。』
刹那、鋭利な刃物が私の眼球に迫る。
刃物だと錯覚していた物は彼の触手だった様で、目的を失った其れは忌々し気にしなっていた。
『危ないじゃないか。講演は閑静に静聴為るものだよ』
「誰もお前の話なんざ聞いちゃ居無ェよ。此の禰古末野郎」
なら今現在君は何に怒っているのさ…と突っ込み所満載の科白を一つ核心に肉薄する。
「死ねよ。あなた」
『やれやれ、話の通じない500歳児だ。』
彼の戦闘体制と共に私も応戦体制へと入る。
飽く迄私の為る事は避けるだけ。既存のcharacterを護る事が私の誓約なのだから。
猫へと姿を変幻為る可く宙で一回転為ようとした瞬間
『ッ!?!?』
稲妻に穿たれた様に全身に衝撃が駆け巡る。非道く瞠目して、衝動に因り獣化に失敗する。半獣化の影響か身の毛が逆立ち瞳孔が開かれ、獣特有の耳がピンと千切れんばかりに反り返る。
「おいっ!あなた!!!」
未だに停滞する電流にガクガクと躰を震わす私を、今の今迄一触即発だった空気も忘れて駆け寄るmere
「あなた、お前其の様子じゃ__
『嗚呼、“視た”よ。此の瞳で確りと』
膝を突きmereの手を借り何とか身体を起こすと、息絶え絶えに私は云うた。
『此の地下世界に、Friskでは無い人間が落ちて来た』
其れは、私にとっての蛇然り。
『私を楽園から追放為る気かい?
遣って見給えよ。遣れる物なら』
其れは、私にとっての禁断の果実だった。
多分この辺りでシュレーディンガーちゃんが誰を元に創られたのか解る人には解る。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。