唇が触れた瞬間、涼太の体がピクリと震えた。
それでも、俺は引かなかった。
(もう、止まれねぇ)
何度も噛み殺してきた気持ちが、抑えられなくなっていた。
ずっとそばにいた。
ずっと俺のものだった。
それなのに、誰かに奪われるかもしれないなんて──
「っ……翔太……」
涼太の声に、ようやく理性が戻る。
息を切らせながら、目の前の涼太を見つめた。
――ひどく、怯えた顔をしていた。
その表情を見た途端、全身の血が一気に冷める。
(俺、何やってんだよ)
「……悪ぃ」
俺はすぐに涼太から離れた。
「……ごめん」
呆然とした涼太が、そっと唇に触れる。
「なんで……急に……」
「忘れろよ、こんなの」
それだけ言い残し、俺は部屋を飛び出した。
***
夜風が肌を刺すほど冷たいのに、体の奥が熱くて仕方なかった。
走っても、歩いても、涼太の顔が頭から離れない。
「……俺、バカかよ」
なんであんなことした?
なんで止められなかった?
なんで涼太があんな顔するって、考えなかった?
自分の中で膨れ上がった独占欲が、抑えきれなくなって、
気づいたらキスなんかして、挙げ句、あんな言葉で誤魔化して。
(……俺、最低だろ)
涼太を困らせたくなかったのに。
ただ、そばにいてほしかっただけなのに。
「……もう、終わりかもな」
自嘲しながら、夜の街をふらつく。
このまま、涼太と気まずくなって、距離ができて、
それで終わるんだろう。
――だったら、最初から気づかなきゃよかった。
俺が涼太を特別だって、そんな当たり前のことに。
***
翌朝、ひどい頭痛とともに目が覚めた。
最悪の気分だ。
でも、それ以上に最悪だったのは──
スマホを見た瞬間、涼太からの未読メッセージが目に飛び込んできたことだった。
「話したい」
たったそれだけの言葉なのに、心臓が跳ねた。
(……終わり、じゃないのか?)
期待なんて、したくなかった。
でも、涼太が話したいと言うなら、向き合うしかない。
俺は震える指で、「わかった」と返信した。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。