リリリリリ…と鈴虫が鳴く、朝夕が涼しくなってきた、秋の季節…。
今日もいつもと毎日変わらず、世界は廻る。
朝が来れば昼が来て、日が沈んで夜に変わる。
何の変哲もない日々、その中でも、あのとき、明るくて真っ直ぐな君はこう歌っていたのだろう。
「月も地球も太陽も奪い取って 手のひらで廻して歌おう…________ 」
任務先でも親しく声を掛けてくる、悟。
彼は五条家に伝わる術式、無下限呪術の使い手だった。
「最強」そんな言葉が似合う彼だ。
そういう悟の足取りは少し軽い気がする。
悟はあなたの下の名前ちゃんのことが好きだ。
そしてあなたの下の名前ちゃんも、悟のことが好きだ。
呪術や恋愛だって、進めば進むほど、彼と比べて私には足りないものばかり…。
悔しい気持ちも、諦めも、全部嫌になって、私はまた切って貼り付けたような笑顔を見せる。
悟はそう言って、きょろきょろと辺りを見渡す。
……確かに、あなたの下の名前ちゃんの姿はどこにも見えない。
悟と私、そしてあなたの下の名前ちゃんとの3人の任務中だった。
それぞれ別行動で呪霊を祓っていたところ、私と悟だけ先に合流…
あなたの下の名前ちゃんもすぐ近くの場所にいるはずだ。
…そんなことをつぶやいていたときだった。
突然「「「「 バコ―――ン!!!! 」」」」」と大きな音が鳴り響いた。
音のする方向を見てみると、森の中から小動物たちが慌てるように出てくる。
…まさか…_____!!
私が駆け出す前にいち早く、悟がその現場へ向かう。
…悟は心配していた、あなたの下の名前ちゃんを。
私は、そんな悟を、後ろから追いかけるように、森の中へ入っていった。
…現場はかなり森の出口付近だったらしく、そこへは早く着いた。
木の幹の影に人影が見える。
悟はそう言って、その人影を覗き込む。
そう言ったあなたの下の名前ちゃんは笑っていた。
頭には、ぶつかった木の葉っぱや木の実が、ドサドサと乗っている。
制服も砂埃をかぶって、くすんでいた。
頭もひどく打っているだろうに……普通に考えれば、きっと「最低」な日々だ。
でもね、君はきっと違うんだろう?
嬉しそうに、あなたの下の名前ちゃんは「最低」な今日を楽しんでいた。
心配そうにしていた悟の表情が、くすっと揺れる。
今年の5月に呪術を始めたばかりのあなたの下の名前ちゃんのことだ、呪霊が祓えたことが単純に嬉しかったのだろう。
けれど、その有り様が……こんなマヌケ面だった。
あなたの下の名前ちゃんも、それがおかしかったようで愉快に笑う。
悟も、それを見て笑う。
それを見て、私も笑ってしまったんだ…______
叶わない夢ばかり並べて、
夜が明けるまで笑いあって、
大人になっていく…。
私にはわからなかった。
叶わない夢ばかり並べるのは辛い。
けれど、それを語り合うことが、君にとっては楽しいんだろう?
…人間はきっと、矛盾だらけの生命体だ。
「月も地球も太陽も奪い取って、手のひらで廻して歌おう」
主人公は君さ、君だけのものだ。
クリアできるのも君だけ。
そう、あなたの下の名前ちゃんだけだ。
私はまた、そんなことも、できやしないんだ。
……夏の終わりくらいからだった。
理子ちゃんの護衛任務もことなく終わり、私たちには日常が帰ってきていた。
教室でいつもの如く、4人で授業を受けたり、任務に行ったり……
そんな日々のなかで、「悟の単独任務」という言葉をよく耳にした。
…護衛任務の中で、悟は「反転術式」を身に付け、強くなった。
1人で「最強」となった。
…前までは、私と2人で「最強」。
そんなはずだったのに。
ふとした瞬間に、彼と比べられているような気がした。
悔しいと思ったりもした。
…けれど、瞳を閉じて、笑って、「誤魔化せばいいや」って…
自分の気持ちに「嘘」をついて、私は意味もなく笑っていた。
…でもね、君はそんな弱気だった私をいつも励ましてくれたんだ。
…そんなこと、君だって同じじゃないか。
私にはあなたの下の名前ちゃんの気持ちがわからない。
どうしてそんなに毎日笑っていられるのか…どうしてそんなに楽しそうなのか…。
…きっと、私には無縁の世界なんだ。
この先にある「希望」なんてものは、当然、君だけのもの…_______
……そう思っていたのに、…________。
星の数ほどある可能性を、
夜が明けるまで語り合って、
…何かを掴んでいくんだ…______
……そう、君が教えてくれたんだ。
私たちにできないことだなんて、ない。
私たち4人ならきっと大丈夫だって…私たちだけでも大丈夫だって…。
私たちはきっと、希望だらけの生命体だ…!
月も地球も太陽も奪い取って、4人皆で、手のひらで廻して歌おう。
主人公は君さ、君だけのストーリー。
クリアできるのも…、
………もしかしたら、「君だけ」ではないのかもしれない…____________
唐突に悟がそうつぶやいたのは、学校近所の裏山に、たまたま登ったときだった。
散歩感覚でぷらっと高専から出て、両手は空っぽ。
私と悟と硝子と3人で、高専生最後の冬を過ごしていた…______
悟はそう言いながら、何か意味ありげに私の方を見る。
あなたの下の名前ちゃんがいなくなった後も、私はどうにか自分の任務を全うしていた。
高専の方針に逆らうこともなく、ただ、目の前にあることだけを信じて、ここまで来た。
私は何も変わっていないはずだ。
…けれど悟は私に言うのだ、「変わったな」と…。
一体何の話をしているのかわからないが、悟がそういうから、多少は何かしら変わっているのかもしれない。
悟はそう言って私から目線をそらした後、大きな背伸びをした。
青天井まで貫いてしまいそうなくらい、伸び伸びとした背伸びだった。
「これから」と言う言葉を聴くと、ぼやっと夢を見ていたみたいに濁った世界が一瞬にして色づき始める。
…まるで今まで、未来を奪われていたかのように…_______。
そして、悟の真っ直ぐな表情を見ると、どこか胸がきゅうっとする気がした。
そんな理由なんて、どこにもないハズなのに…。
私はふと考える。
これから私は、何がしたいのか…。
将来だなんてものは正直ぼんやりとしていて、夢は大きく膨らみ、来年の自分の身だとは実感が湧かない。
…やりたいこと、なりたいものなど特になかった。
だからこそ、こう思ったのだろう……。
それを聞くなり、悟は一瞬驚いたような表情をした。
…けれど、それはすぐに笑顔に変わった。
嬉しそうに笑う悟は、私と硝子の前に、1つ拳を出した。
悟はその拳を、そう説明した。
たぶん、私と硝子の拳をぶつけてほしいのだろう。
私と硝子はそれを気取り、片手をだして、拳を差し出した…___ときだった。
…弱々しく、今にも泣きそうな声で、悟はそう言った。
私と硝子の動きが一瞬止まる。
…悟がここまで、真剣に「未来」について考えているとは思わなかったからだ。
……少しの緊張の後に、硝子がハハッと笑う。
「そうだね、」と私は硝子に続ける。
悟はそれを聞いて、しばらく何も言わなかったが、クククッとうつむいたまま笑い、そして、顔をバッとあげた。
それからその丘とも言うべき山で、色々なことを話し合った。
高専を卒業したら何をしたいか、髪を派手な色に染めてみたいとか…
どこに旅行に行きたいか、いっそ海外に引っ越してしまおうだとか…
…叶いそうな夢も叶わない夢も、夢ばかりをたくさん並べては、夜が明けるまで笑い合って…_____
そして大人になっていくんだ。
ずっと子どもでいたいと願いながらも、大人に憧れる…。
私たちはきっと、矛盾だらけの生命体だ…_______
だから今日も歌う。
夜の空で神々しく輝く、あの月も
世界中の人々を繋ぐ、この大きな地球も
あんなに暖かくて、壮大な太陽も
全部、全部、……奪い取って、手のひらで廻して歌おう!
間違いはない。
主人公は君さ。
君だけの、ストーリー。
クリアできるのも、君だけなんだ。
そう、大切に胸に抱えていよう。
君と4人で、また笑い合う日を夢に見て…__________
おわり
夏代孝明さんの「ユニバース」より、曲パロ書かせていただきましたー!
こちらの楽曲は夢瑠莉の大好きな曲の1つで、初めて聞いたときから「傑さんに聴かせてあげたいな」なんて思ってたので笑、この機会に書いてみました🙌✨️
そしてラストのシーンは、最終回(第100話)で悟がほんのり話していた「次はあなたの下の名前も連れてこようね」の場面です。気付いた方もいるかもしれませんが、このシーン段階で3人は高専4年なので、傑さんは離反することなく高専に通っております!!あなたの下の名前ちゃんの努力が報われたようです…ε-(´∀`*)ホッ
さて、この【曲パロ・番外編】企画ですが、一旦、次の更新を最後にさせていただきたいと思いますっ…!!!
ここまで読んでくださった皆様、本当に応援ありがとうございました!!
信じられないくらい読者の方々に支えていただき、無事に夢瑠莉も納得のいく形で終わることができそうですっ…(๑•̀ㅂ•́)و✧笑笑
次回は五条悟の誕生日、12/7を予定しております!
また会いましょう!
では!
夢瑠莉はる


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!