こちらを振り向いたアオイは、私が今まで見てきたアオイではなかった。
背中から生えた8本の足は蜘蛛とそっくりで、いつもは優しい目付きが鋭くなっているのがわかる。
「二人は大人しくしててね。私がすぐに終わらせるから」
だが、目付きが鋭くても、アオイのその口調と声は優しいままだった。
「アオイさ…」
私が危険だと呼び止めようとするが、声を出した瞬間にアオイは何かを引っ張るような動作をした。
その手からは、白い紐が何本も伸びているのが太陽の光の反射で見え、その紐が蜘蛛の糸だと気づくのに、少し時間がかかった。
周りの人がみんな動かないのを見る限り、私たち含め、アオイを除く人達はみんなこの蜘蛛の糸で拘束されているのだろう。
「なーに?私が負けると思ってるの?」
どうしても心配の気持ちが抜けきれずにいると、私の目の前までやってきたアオイが、口角を上げながら私にそう話しかけてきた。
その片手には塊に近い糸の数々が指の間から見え、その数を捌ききるアオイのスペックに驚かされる。
「安心しなさい。これでも、小さい頃は暗殺の仕事を請け負っていたのよ」
耳を疑うような言葉を最後に、アオイは器用に指を動かす。
すると、私とキョウカを拘束していた糸が解け、私たちだけ自由に動くことが出来る状態になった。
「……キョウカも色々言いたいことがあるみたいだし、早く終わらせなきゃね」
その言葉に反応して、反射的に私はキョウカのいる方を振り返った。
その腕の中には、既に人質として捕らえられていた女の子がおり、キョウカの顔は真っ直ぐアオイの方を向いている。
わかりやすく頬が膨らんでいる事から、怒っているのは確実だろう。
「あぁ…」
その表情から、この後彼女が何を言うか察した私は、苦笑を浮かべることしかできなかった。
「じゃあ、苦しまないように一瞬でやらなきゃ」
そう言って、糸をまとめて握ったアオイ。
この後起こる光景を想像すると、私は血の気が引いてしまい、反射的にアオイの腕を掴んでしまった。
「こ、殺すのはやめてください!」
私の声に反応して、アオイの驚いたような声が響く。
「どしたの急に…!?ここでやらなきゃ、私たちが殺されちゃうのよ?」
「や…でも……他になにか…!」
正直なところ、人が自分の目の前で死ぬのが怖いだけだ。
それを隠すように、私は必死に他の案を考えるような素振りを演じる。
このまま、あの人たちが逃げてくれたら。
そう願っていた時だ。
「撃て」
静かな、低い低い声。
その短い一言の直後、町中に大量の銃声が鳴り響いた。
「ユキ、危ない!」
「っ!?」
アオイが私を地面に押し付けるように力を加え、しゃがんだ私の上を覆い被さるように、アオイは私の上に乗っかった。
男の悲鳴がいくつも聞こえた後、何人かの足音が近づいてくる。
「よく足止めをしてくださいました。ユキ様」
「……クロ、さん…?」
顔を上げれば、いつもの笑顔を浮かべるクロが、私と視線を合わせるようにしゃがんでいた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!