しばらく泣いた蘭は、ちょっと恥ずかしそうに俺から離れた。
ふと蘭を見ると、体がさっきよりも透けていた。
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
声が上ずる。
蘭は俺の目を覗き込むと、優しく笑った。
どっちの意味で……?
その言葉は、蘭の声で遮られた。
四人が振り返る。
四人とも、息を呑んだ。
蘭は涙を拭う。
鼻を啜る音が響く。
桜よりも綺麗な、涙でぐちゃぐちゃな顔が笑う。
ずっと見たかった笑顔。
見慣れていて……それでいて、大好きな笑顔だ。
桜の花びらが舞い上がる。
目を開けたときには___。
もう、蘭はいなかった。
___一年後。
墓石に水をかけ、隣に座る。
そう言っても、答える声はない。
ふふっ、と、笑う声が聞こえた。
___気がした。
馬鹿野郎。
本当に馬鹿野郎。
それでも、たった一人の親友で幼馴染だ。
満開の桜の下で、桜の木を見上げる。
また逢えるかなんてわからない。
また、逢いたいよ。
静かに振り返る。
やっぱり___。
お前が大好きだ。
春咲く今日に君は亡く 完
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!