生徒会長という立場は、思っているより楽だ。
求められている答えを出せばいい。
笑うタイミングも、引くタイミングも分かる。
「ハンビン、これ確認お願いします」
「会長、今日のスピーチ案です」
Hanbin「うん、あとで見る」
自然な声、自然な笑顔。
完璧……のはずだった。
昼休み。
廊下の向こうで、書記が友達と話しているのが見える。
――普通の顔。
夜に見る顔とは、少し違う。
Hanbin「……」
目が合う前に、視線を逸らした。
昨日、言われた言葉が頭に残っている。
『会長じゃなかった……ハンビン』
あのとき、少しだけ呼吸が乱れた。
Hanbin「……やばいな」
小さく呟く。
副会長が横から覗き込む。
「何が?」
Hanbin「いや、なんでもないㅎ」
即答。
放課後。
生徒会室に書記が入ってくる。
「お疲れさまです」
Hanbin「お疲れ」
声が、少し低くなるのを自覚する。
――近づきすぎない。
そう決めたのに。
Hanbin「今日、ここ直した?」
「うん」
Hanbin「ありがとう」
資料を受け取るとき、ほんの少しだけ距離が近い。
触れていないのに、触れたみたいな感覚が残る。
Hanbin「……」
「なに?」
Hanbin「いや」
言いかけて、飲み込む――昼は抑える。
自分で決めたこと。
夜。
路地。
街灯の下で、壁にもたれる。
Hanbin「……来るかな」
スマホを見る。
時間は、だいたいいつも通り。
姿が見えた瞬間、無意識に肩の力が抜ける。
Hanbin「遅かったね」
「バイト長引いたの、」
Hanbin「お疲れ」
自然に言える。
学校では言えない声。
少し並んで歩く。
Hanbin「今日さ」
「うん」
Hanbin「昼、目合ったよね」
「……合った」
Hanbin「逸らされた」
「……」
Hanbin「俺も逸らしたけどさ、ㅎ」
小さく笑う。
「なんで?」
Hanbin「……分かってるくせに」
立ち止まる。
Hanbin「昼に夜のこと思い出すとさ距離、バグる」
「……」
Hanbin「会長でいなきゃいけないのに」
視線が合う。
Hanbin「俺になる」
静かな告白みたいだった。
「……それ、嫌?」
Hanbin「嫌だったら、ここ来てない」
少し風が強くなる。
Hanbin「なあ」
「なに」
Hanbin「俺、昼は抑えるって言ったけど」
「うん」
Hanbin「夜は、抑えない」
「……」
Hanbin「それでも、いい?」
その問いは、前より少しだけ踏み込んでいた。
「……いいよ」
答えを聞いた瞬間、ほんの少しだけ目が揺れる。
Hanbin「……ありがと」
距離は、まだ触れない程度。
でも確実に、前より近い。
Hanbin「秘密、やめる気ないから」
「……知ってる」
Hanbin「そっかㅎ」
小さく笑う。
生徒会長の顔は、今はどこにもない。
いるのは、境界線の内側に立っているハンビンだけだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。