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第4話

第4話
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2025/10/09 13:10 更新
森の夜が明け、濃い霧とともに戦の残り香が消えていく。焦げた木々、黒く焼けた血の斑。復讐を果たしたはずの森は、なおも赤いざわめきを孕んでいた。  
村へ戻ったシン=ルゥは、契血による熱をまだ体の奥に感じていた。胸の内で何かが脈打っている――それは銀血と鮮血の融合。通常ならば即死するはずの禁断の混血が、ゆっくりと彼の肉体に浸透していった。手のひらの静脈が淡く光り、血色は金属のような輝きを帯びる。
ホング=バオシーは、その異変を見て悟った。
「……お前の中で血が暴れている。契血が、許されぬ力を呼び覚ましたのだ」
シン=ルゥは息を荒げ、両腕を押さえる。血の熱が筋肉を裂くように迸り、視界が揺らぐ。遠くの虫の翅の音まで響くほど聴覚が研ぎ澄まされ、心臓の鼓動とともに世界が脈動していた。
その夜、暴走は訪れた。
シン=ルゥは夢とも現ともつかぬ闇の中で、かつての戦士カルブンクルスの影を見る。
「その血はお前のものではない。制せねば、明日には屍だ」
声に導かれるように、彼は焚火の前で目を覚ます。長槍を握るたび、血の鼓動が刃へと伝わる。槍が唸り、風が震える。体内を巡る血が、外界の気配と共鳴を始めた。
翌朝。ホング=バオシーは彼を試すため、村外れの崖下へと連れ出す。霧に包まれた断崖の下には、白黒者の影が三体、息を潜めていた。
「血を制す者だけが生きる。行け――己の血を敵とせよ」
シン=ルゥは無言で飛び降り、槍を構える。体内を奔る血の衝動が、恐怖と混ざり合って燃え上がる。白黒者の目が光り、風が裂けた瞬間、彼は地を蹴り、槍を突き出した。
一閃。白黒者の胸を貫いた刹那、彼の体から紅い光が爆ぜる。血が宙に舞い、霧と混じり、雷鳴のような音を立てた。全身に力が溢れ、視界が真紅に染まるが銀血が防衛機能を発動し感染を防いでくれた。
「――これが、血を覚ます感覚か……銀血が、俺を守ってくれたのか……」
彼の声が震える。槍の刃が自ら赤光を放ち、血液が蒸気のように立ち昇る。二体目、三体目の白黒者が襲いかかるが、一瞬のうちに叩き伏せられた。
崖の上から見下ろすホング=バオシーの瞳が細まる。
「制御できるか」
シン=ルゥは槍を胸元へ突き立て、血を一滴飲み込む。激痛とともに力が鎮まり、呼吸が整う。
「……できます。カルブンクルスの血が、俺を導きました」
その瞳はもはや新人のものではなかった。鮮血族の戦士として目覚めた者の光がそこに宿る。
血に狂い、血に生かされ、そして血を御す者――それが新たな戦火の幕開けとなった。

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