そこは山奥だった。
携帯電話は圏外。街灯も明かりも何も見当たらない。
ただ、何故か道が続いている。
真っ暗だ。車のライトを付けないと何も見えない。
しかし意外と近場ではあった。
近くは無いが、小一時間ほど。
適当に路上に止めるが、
なんだ、窓ガラスは割れ、書類は散乱し、
これはもうズラかった後か?
中は大層な荒れようだった。
椅子が散らかっていたり、
足の踏み場がないほど書類が散らかっていたり。
お世辞にも綺麗とは言いにくい。
色々な部屋を開けて回るが、
やはり普通のワクチンや交代の開発を行っているような
研究所にしか到底見ることはできない。
(時々荒らされていたせいか穴が空いているところもあった)
キヨが指さす所は壁だった。
何も無い、ただ真っ白な壁。
少しそこから距離をとったかと思うと、
フッと常人では見えないであろうスピードで
回転蹴りを壁に食らわせる。
もちらん、バコォと音がして壁が砕けたのだが、
おかしな事に、その向かい側に部屋が現れたのだ。
キヨはスタスタと先を歩く。
その部屋はコンクリートの壁で出来ていた。
これを破壊できる脚力は大いに尊敬しかない。
そしてその部屋の牢獄のような場所にいた男に向かって
ミアは呼びかける。
その男の首には、No.73βと書かれていて、
ミアが呼びかけても反応することは無い。
瞬きすることも無い。ただ、横を向いて椅子に座っている。
突然、ガシャァンと音がして、
研究所が少し揺れる。
ミアの旦那と見られる男は
その揺れだけで体が前に倒れると、
そのまま地面に崩れ落ちる。
もう既に事切れているのだ。
瞬間、銃声が鳴り響き、
俺に向かって放たれる。
しまった完全に油断していた。
どこからだ、そうか。あいつか。
物陰に隠れていた研究員。
あいつがリボルバーを握りしめている。
コツン、と自分の肩に銃弾が当たる。
が、無論何も無い。
俺の祝福は"性質の上書き"。
今、この鉛の銃弾を素材をスポンジとして訂正した。
まぁ、あと30秒後には元に戻るのだが。
正直言ってこの力はチートといっても良いだろう。
それゆえに、代償が重すぎるのだ。
今、訂正によって歪んだ時空を、
自分の身をもって支払わねばならない。
それを俺は"現実認識の摩耗"と呼ぶ。
少しずつ、感覚、思考、恐怖心、痛覚、
それらが消えてしまう。
少し経ったら治るものの、酷い時は
思考などろくに出来なくなる時もある。
だからあまり使いたくないのだ。
いつ何が消えるか分かったものではない。
俺は感情を初めとして....
俺は
誰だお前は。
俺は誰だ?誰だった?
1人では何も出来ないただのゴミ。
大層な過去も持っていない、
ただここに逃げ込んだだけの、











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!