第20話

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2026/03/16 08:36 更新
十数年前___




走って走って走って、ようやっと足を止める。

ここまで来れば、誰も追いつけないでしょ。

そんな慢心を抱いてしまう程の場所。

しかしここはただの公園だ。

鬼ごっこ?

そんな可愛いものではない。

ではかくれんぼか。

それも違う。



少なくとも、"お遊び"で片付けられるようなものではない。
ある意味かくれんぼでもあり、ある意味鬼ごっこでもある。

1人の少女、あなたの名字あなたの下の名前は、実の母親から逃げていたのである。

公園に着き、上がった息を整えベンチに座る。
あなた
(絶対、塾になんか行くもんか……!)


そう決心し、家を飛び出してきた。

それも、初めてではなく数度目だ。

毎日のように聞かされる母の怒号と嫌味、妬み嫉み、恨みつらみ。

全てに嫌気がさした少女は、ついに逃げ出すことを覚えた。

少女には兄と姉がいた。

姉は5つ、兄は3つ、離れていた。

当時小学三年生だった少女は、中学受験のため、毎日休む暇なく夜遅くまで塾に通わされていた。


母は、兄と姉には全く期待をしていなかった。
自分の望んだ道に進んでくれなかったからである。
その点、少女には重すぎるほどの期待をかけていた。

そんな重圧に押し潰されそうな毎日を送っている少女にとっての唯一の救いといえば、2人の幼なじみだった。

同い年の瀬戸紗香さやか、4つ上の岡山太郎。

お互いを、みぃ、たろちゃんと呼びあえるのような仲で、母もこの2人との交流は許していた。

この2人だけは、少女が全くの警戒をせずに接することができる人物であった。

そんなある日。
たろちゃんこと太郎が、少女の兄を連れて公園にやってきたのだ。

少女は失望した。

つい先日、約束したのだ。
ここに少女が逃げてきていることは、3人だけの秘密だと。
あなた
なんで……たろちゃん……
岡山 太郎
なんで、なんて言ってる場合じゃないんだよ!
姉さんが、米花中央病院に……




その後の詳しいことは、少女の頭に残っていなかった。
ただ、聞いた事実だけを言えば、こうなる。

毎日のように家から抜け出して塾をサボってしまう少女がこんな風になったのは、"お手本"である兄、姉が悪いのだと。

ヒステリックになった母は、まず、長女である姉に手を下した。
何度も、何度も何度も叩いて、殴って。

顔が腫れるまで、息が弱々しくなるまで。

「ごめんなさい……」と意味もなく謝るか細い声は、母の耳には届かなかった。
兄が止めに入った。

母は抵抗した。

言い合う声を聞いた近所の人が通報した。
姉は、命に別状は無かった。

少女は、児童相談所の保護施設に預けられ、兄と姉は叔父叔母の元へと預けられた。

この当時の少女が感じたのは、ただ1つ。

疎外感だった。

なぜ、自分だけが叔父叔母の元へと行くことができないか。

なぜ、兄と姉と離れたところで暮らさなければならないのか。

なぜ、なぜ。
募りつ続ける"なぜ"は、解決されることはなかった。
母が敷いたレールの上を歩くことしか出来なかった少女は、歩くはずだったレールの上をただひたすらに進んだ。
岡山 太郎
将来の夢くらい、おばさんが言ってた選択肢の中じゃなくて、自分がやりたいことをやればいいじやんか


こう言われたのが、高校2年の頃の話だ。
あなた
……たろちゃんは、何になるの
岡山 太郎
俺?俺は、警察官になって、犯人バッタバッタ逮捕すんだよ

大学3年生のセリフとは到底思えないが。

少女にとって太郎の言葉ほど信頼できるものはなく、気付けば、
あなた
……じゃあ、私も


と、言っていた。











___そして、今。
あなた
3年前、急にたろちゃんが音信不通になったの
降谷零
え?
萩原研二
3年前っつーことは、俺らはまだ大学2年か
松田陣平
その幼なじみが4つ上なら、3年前は……
諸伏景光
もう警察学校を卒業してる
伊達航
卒業した瞬間に音信不通……か
あなた
うん。……でも、もういいの。3年も経ってるし、それに、……みんなは、巻き込めないよ……
萩原研二
なんかずっと同じようなこと言ってっけど
松田陣平
巻き込まれるかどうか判断するのは、俺たちだ
諸伏景光
オレも、気持ちはわかる。でも、少しは頼ってくれても、いいんじゃない?
伊達航
散々、色んなことに巻き込まれてきたじゃねーか
降谷零
僕らを信じてみるのも、いいかもしれないぞ


逆行のせいか、そう言って笑う5人が、なんだか眩しく見えた。

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