結婚から三日目の朝。太宰治は、いつものように自殺未遂を図ろうとして
国木田独歩に阻止された後、フィーニックスが滞在する新居に戻ってきた。
リビングには、昨日と同じ場所、同じ姿勢でフィーニックスが立っていた。
感情の欠片もない無表情、直立不動。まるで、誰かが部屋に置いた装飾品のようだった。
太宰は、彼女の「人形」としての性質を知っているため、命令口調を用いた。
フィーニックスは、その言葉にわずかに反応し、滑らかに、機械がレールの上を滑るように動き始めた。
その動きは完璧で、無駄がなく、同時に人間的な生気が全く感じられなかった。
太宰は軽蔑の眼差しを向けた。彼女の自発性の欠如は、太宰の虚無感を刺激する以上に、
ドストエフスキーの醜悪な支配欲を連想させ、太宰の嫌悪感を増幅させた。
道中、フィーニックスは太宰の半歩後ろを、一定の速度で歩き続けた。
信号待ちの車の騒音にも、賑やかな街の喧騒にも、彼女は反応しない。
その無表情のまま、彼女は世界から切り離された存在だった。
武装探偵社に着くと、国木田独歩、中島敦、泉鏡花、そして与謝野晶子など、
主要なメンバーが揃っていた。彼らは、太宰が連れてきた異質な存在を一斉に警戒した。
国木田が眼鏡を押し上げた。
太宰は、フィーニックスを自分の横に立たせながら
(もちろん、彼女は無言・無表情のままだ)、ふざけた調子で説明した。
フィーニックスは、探偵社のメンバーからの鋭い視線を浴びても、表情一つ変えない。
太宰は、彼女の背中に手を添えるフリをして、国木田たちに囁いた。
敦は、その異様さに戸惑いを隠せない。
敦が純粋な疑問をぶつけても、フィーニックスは無反応。
まるで質問が彼女の耳を素通りしているかのようだった。
その時、泉鏡花がフィーニックスに静かに近づいた。
鏡花は、その身に暗殺者だった罪を背負っている。
彼女は、フィーニックスの感情のない瞳に、ある種の恐怖を感じ取った。
鏡花が声をかけようとした瞬間、フィーニックスはまるで
壁がそびえ立つように、スッと太宰の背後に完璧に隠れた。
その動作は迅速で、極度の臆病からくるものだったが、
彼女の体が太宰に触れることは絶対にない。常に数センチの間隔が保たれている。
太宰は背後にぴったりと張り付く気配に、内心で舌打ちした。
太宰はまだ、その「盾」としての役割に、
愛着ではなく、不快感と敵意しか感じていなかった。
太宰は、彼女への嫌悪を隠さずにそう言った。
しかし、フィーニックスの『人形遣い』の異能力は、その無言のまま、
すでに探偵社のメンバーの心の糸を探り始めていた。














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。